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だらだら書きますので、だらだら読んでもらえるとありがたく。

『むしろウツなので結婚かと』第17話~逃げても怖いなら攻略だ?

 本日10月6日に『むしろウツなので結婚かと』の第17話が無料公開されました。
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 身近な誰かがウツになってしまった時、一番の恐怖は自殺で、二番めは失踪なんじゃないかと私は個人的に思っています。
 単純に、私がその二つをむちゃくちゃ恐れていたというだけなんですけど。
 この恐怖にどう対応するのがよいのか、みたいな話を今回はします。

 まず自殺について言いますと、遠い昔に「完全自殺マニュアル」を読んでいたという事実は、私にとってずいぶん助けになりました。
 出版当時は賛否両論あった本ですし、たとえばウツで具合の悪かった頃のセキゼキさんがあの本をもし読むようなことがあったらと考えるとゾッとしますので、全肯定するにはためらいがあるのですが、私自身はあの本にとても感謝をしています。
完全自殺マニュアル」を読んでまず感じるのは、「自殺って思ったよりもずいぶん難しいんだな」ということです。
 たとえば公序良俗に反しないためにも具体的な名前は出しませんけれど、精神科でよく処方されるある薬の致死量は、体重50kgのひとなら4万3千錠飲んで死亡率50%などと言われています。
 選べるなら痛みのない楽な死に方をしたいとひとは思いがちなわけですけど、それは全然簡単なことではないんだなということを、「完全自殺マニュアル」は教えてくれました。
 たいてい確実に死ねるであろう方法というのは辛かったり痛かったりするし、それでもなお死ねなくて苦しみ損になったりすることもあるし、楽そうな死に方というのは成功率が低かったり実行が困難だったりするのです。
 私はセキゼキさんが自殺したらどうしようと不安になる都度、あの本の内容を思い返して気持ちを落ち着けました。。
 大丈夫、自殺はそんなに簡単じゃない。セキゼキさんが死のうとしても、だからってそれが成功するとは限らない。むしろ未遂に終われば、そこから医療保護入院の道がひらけるかもしれないんだから、あまり後ろ向きに考えるのはやめよう。
 そんな風に。
 まあ、自殺未遂で医療保護入院という道のどこが前向きなんだという気はしますけれど、それでもそう思うことで、気持ちは少し楽になったのでした。

 知識はひとを救います。自殺についての情報をいくらか持っていたということが、私をずいぶん助けてくれました。
 私は学生時代、医学部の先輩に訊いたことがありました。
 薬を飲みすぎてぐったりとした人が目の前にいたら、どうすればいいか。
 救急車を呼ぶのはもちろんとして、それ以外に何が出来るか。
 ミステリで自殺に見せかけるために大量の薬を飲ませるシーンが出てきたけど、こういうのって可能なのかなと思ったから、ふと思いついて訊いたのです。
 まさか好奇心が赴くままにしたあの質問が、十年以上経ってからむっちゃ役立つことになるとは思いもよりませんでしたよね。人生ほんと何があるかわかりません。

 先輩の答えは大体こんなかんじでした。
「じゃあ、救急車を呼んで、その到着を待っている間にできることという前提で答えるよ」
「まず、薬の包装シートが残っていないか確認すること。できればそれを持って救急車に乗るか、救急隊員に渡す。何を飲んで具合が悪くなったのかわかれば、適切な処置ができるから、薬の種類を特定できる情報は重要。包装シートが見つからなければ、お薬手帳でも薬の入っていた袋でもなんでもいいから、特定に繋がりそうなものを探しておく」
「それともう一つ。低下してしまっている意識レベルを少しでも引き上げることを試みるんだ。具体的には刺激を与える。大きな声で名前を呼んで、あとはまあ……痛覚刺激が効果的かな」
 この教えが頭に残っていたからこそ、私はセキゼキさんが薬をのみすぎて眠り込んでいる現場に遭遇した時、まず彼をひっぱたいて起こすことができました。
 その後、からの包装シートを数え、これで死ぬことはないと安心することができました。

 共倒れにならないようにしよう。
 自分まで暗い気持ちにならないで。
 ウツの人が身近にいると、よくそんなことを人に言われます。まったくもって正しい。正しいけれど、じゃあそのためにはどうすればいいのか? という具体的な部分は、あまり教えてもらえません。
 くよくよしないほうがいいとか、気の持ちようだとか、物事を明るくとらえようとか、そういう心がけみたいなことは、けっこう聞くんですけれども。
 だけど人間って、
「はーい、わかりました。だったら今日から明るいことだけ考えようとおもいまーす!」
 と宣言すればその言葉通りに明るいことだけを考えることができる生き物でしょうか?
 私は違うと思います。
 そういう事ができるひともいるかもしれないし、いたらすごいけど、だけどそういうひとばかりだったら、世の中もっと悩みは少ないはずじゃありませんか。
 考えたくないことも考えてしまうし、そこから簡単に逃げられないから、ひとは悩むんじゃないでしょうか。
 セキゼキさんが自殺したらどうしようと考えることを、私はやめることができませんでした。やめてよいとも思いませんでした。だって実際、怖くてたまらないんですから。考えるのは辛くて怖いけど、考えないで無策でいる間に取り返しのつかないことが起きるのもやっぱり、怖かったのです。
 そういう時、思い切ってその恐怖に近づき、取り組んでみるのも一つの方法なのではないでしょうか。
 わからないものをわからないまま怖がるのではなく、事実を知り、知識を蓄えて、対処法を考える。
 そんな知識や対策が実際には使われること無く立てること終わる可能性のほうが、高いとは思います。
 けれど、無駄ではありません。取り組み、学び、考えることで、ひとは闇雲に怖がることをやめ、現実に対処することができるようになるのだと、私は思います。