本日11月17日に『むしろウツなので結婚かと』の第19話が無料公開されました。
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ウツを患った人は、『自殺』とかいう物騒なヤツと急接近してしまうんだなということを、私はセキゼキさんにまざまざと実感させられました。
当然のことながら私はこれが嫌で嫌で仕方なく
「お願いだから『死にたい』なんて言わないで」
と言っていたわけですが、まあこれは今思い返すと最大級の愚策でしたね。
だって「し」と「に」と「た」と「い」を繋げて発音することをやめたからって、心の中の死にたい気持ちは別になくなったりはしないんですから。
ただ、こちらからはそれが見えなくなるだけです。見えないから、安心してしまう。見えないことと存在しないことは、イコールではないというのに。
臭いものに蓋をしているだけです。そうやって偽りの安心にあぐらをかいて、何かを解決したような気持ちになって、蓋の下がどうなっているのか、私は長い間気付かないままでいたのです。
違いますね。
実際には、完全に気付かないでいることは無理でした。セキゼキさんの調子が悪い時はそれがわかりましたし、そうなってしまえば口に出さなくなって希死念慮が彼の中で渦を撒いているのだろうということは、さすがに予想がつきましたから。
だけど私は疲れていたので、「死にたい」「終わらせたい」とこぼすひとに、「そんなのやめてくれ」と頼み続けてだけど何も変わらない数時間にうんざりしていたので、その厄介さから逃れるために、ただセキゼキさんに
「『死にたい』なんて言わないで」
とお願いしていたわけです。
本当に大事なことは「死にたい」という言葉を聞かずに済むことではなく、セキゼキさんに死なれないことだというのに、わからなくなっていたのです。
実際にセキゼキさんから遺書めいたメールを送られ、彼が私の知らないうちに自殺未遂をしていたことを知って、私は自分が間違っていたことを悟らざるを得ませんでした。
というか、当たり前なんですよね。
たとえば
「○○くんと付き合うのはやめなさい。ああいう子と仲良くしないで」
「私はもう、○○くんの話がききたくありません。わかるわね?」
みたいなことを親が言ったとして、それがまあ心からの心配によるものだったとしてもですよ。
子供は素直に言うことを聞いてくれるとは限らない。
人によっては親の目を盗んで、隠れて友達付き合いをするようになるでしょう。
仮に問題の○○くんとの親交が薄れたとしても、今後は自分の交友関係を親に教えるのはやめようと、そう考えるかもしれません。
どうせ反対される、どうせ干渉される、どうせ理解されないなら、すべて隠したほうがマシだと、そう考えるのはごく自然なことですし、正しくもあります。
その結果、スタート時点では純粋に子供を心配しているだけだった、子供のことを知りたい、道を踏み外したりしてほしくないと思っていたはずの親は、子供に対する巨大な無理解を抱えることになるでしょう。
自分が嫌だから不快だからという理由で、相手の気持ちや行動に闇雲に反対したり制限したりしようとすることは、結局かなり無意味なんだろうというのが、現時点での私の意見です。
そんなことをすれば、相手は隠れてしまうだけなんですよ。締め付けを強くすれば、もっと巧妙に隠れていく。最初はあったはずの対話の可能性もうしなわれ、見えないところで想像以上に事態は酷く進行していくかもしれないのです。
キャピュレット家のジュリエットちゃんと、モンタギュー家のロミオくんなんか、交際を反対されたせいでティーン・エイジャーがいろいろと暴走しちゃってやらかして最悪の結果になりましたでしょ。
あれなんか、不快な気持ちをぐっとこらえて周りが一度は二人の気持ちを受け入れていたら、ティーン・エイジャーの未熟な恋でしょ、
「ねえママ……ロミオってなんか、時々すごく子供っぽいの。それに、鼻毛が出ている時があるのが気になるわ。なんだか冷めちゃった」
みたいなことをジュリエットちゃんが言い出して、さらっと終わった可能性もあります。
終わらなかったら? その時はその時でしょうがないでしょ、縁があったということですよ! どっちみち他人の人生をコントロールしたいという願望、かなり邪悪ですから。我が子といえども思い通りにしたらあかんよ。
まあこんなわけのわからないif語りをしなくたって、禁酒法を制定した結果、ギャングが酒売って大儲けして、アル・カポネとか大活躍する結果に繋がっちゃったでしょ。もうそれが答えだと私は思っています。
酒は確かに害の甚だしい飲み物ですし、嫌う人や廃絶したいと思う人が大勢いるのは理解できますが、だからって禁じればいいってものではないのです。
というわけで、私は方針転換してセキゼキさんに「死にたい気持ち」をオープンにしてくれるよう、お願いしました。
オープンにしてもらったら、そっちのほうが断然よかったですね。
まずセキゼキさんの調子の善し悪しが、かなりはっきりとわかるようになりました。隠されなくなったからです。
そしてもう一つ、マンガの中でもありますが、セキゼキさんの『自殺計画』みたいなものを事前に知ることで、対策がとれるようになったことです。
まず計画にイチャモンをつけることで、それを実行しようという気を萎えさせることができますし、計画を知っていればそれが失敗しやすい方向に持っていくこともできます。
たとえば作中に出てきた「床に包丁を固定してそこに倒れ込む」という方法、これはセキゼキさんが実際に何度も口にしていたやつなのですが、そんなことをもし実行しようとしたら失敗するよう、誘導をかけることができるわけです。
「床に包丁をどうやって固定するの? やっぱりガムテープかな」
と言って、セキゼキさんにガムテープ固定方式を刷り込んだ上で、家の中にあるガムテープを全て粘着力の弱いものにすり替えておく。とかね。
実際には、粘着力強かろうが弱かろうがそんな方法でうまく死ねるとはあまり思えませんが、そういうことをしておくと、私自身が安心できるわけです。