wHite_caKe

だらだら書きますので、だらだら読んでもらえるとありがたく。

『むしろウツなので結婚かと』第21話~あなたが出した結論が正しい

 本日12月22日に『むしろウツなので結婚かと』の第21話が無料公開されました。これが最終話となります。
comic-days.com

 前回も書きましたけれど、約一年間にわたる連載におつきあいただいた皆様、ありがとうございました。
 無料公開時に合わせて更新してきた文章も、これが最後となります。

 連載中、一度こんな風に訊かれたことがありました。
「シロイさんと同じように、家族や身近な方がウツになり、どのように支えていけばいいのか、支えきれないのではないかと悩んでいる方も、読者の中にはいらっしゃるのではないかと思います。そのような方に、どんな言葉を届けたいですか? 乗り越えるためのアドバイスは何かありますか?」
 私はその時、こう答えました。
「状況は人によって様々ですから、こうすれば乗り越えられると言えるものは特に無いと思っています。あえて言うのならば、ウツの方を支えるのは大変なことですから、無理だと感じたらいつでも投げ出していいとと思うのです。それによって責任を感じなくてもよいと、私は思っています」
 私の答えを聞いた時に、質問なさった方がちょっと驚いたように目を見開いたのを覚えています。

 この『むしろウツなので結婚かと』という物語が公開されるにあたって、私が危惧していたことが二つありました。
 一つ目はセキゼキやシロイと同じような状況の方がこの物語を読んだ時に、
「この人達はうまくいったのに、自分たちがそうじゃないのはがんばりが足りないからなのか?」
 と思うこと。これについては前回書きました。
 どんなにがんばっても運が悪ければどうしようもないし、それほどがんばってなくても運が良ければなんとかなったりするものなのだから、自分のせいだと思わないでほしいと。

 そして二つ目は、シロイと似たような立場になった方が
「自分もなんとかして最後まで支えなくてはいけなんじゃないか。逃げ出しては駄目なんじゃないのか」
 と感じてしまうことです。
 これについて、今回は書きます。

 まず、セキゼキさんからすると違う意見があるでしょうが、私自身は私がいなくてもセキゼキさんはなんとかなっていたんじゃないかなあと思っています。
 物語を読んでもらえばわかるのですが、セキゼキさんが良くなったのは、医学によるサポートと休養によるものです。
 私がいなかったとしても、おそらく彼にはこの二つが与えられることになったでしょう。
 もちろんウツの人によくあることですが、セキゼキさんは当初、どちらも激しく拒絶していました。病院なんて嫌だ、休むなんて許されないと、抗い続けました。
 たまたま今回のケースでは、身近にいた私が彼を無理やり病院に引っ張っていき、会社に連絡して休職にこぎつけましたが、別にこれは他の誰が行っていてもおかしくないことです。
 働けず、電車にも乗れなくなっていたセキゼキさんは、私がいなかったとしても彼の家族や、あるいは会社の同僚の手で休まされ、病院に連れて行かれることになったでしょう。
 そのほうがシロイによる説得よりもよほどスムーズに進んだんじゃないかな、という気もしています。
 別にこれは、だから私のしたことが無価値だったと言いたいわけではありません。ウツになって最初に手を伸ばした相手が、その手を振り払わずにサポートに回ったということ自体は、セキゼキさんの精神に多少のプラスであっただろうとは思っています。
 人生なんてそんなもんでじゅうぶんです。どんなポジションだって代替可能だけれども、それでも自分がそこにいた事自体はほんのちょっとプラスだったんじゃないかなと、そう思えたら上々ですから。

 ですから今現在、劇中のシロイと同じような状況で、苦しんでいる方へ。
 あなたがそこにいて必死に支えよう、離れまいとしていることは、プラスです。状況を一気に好転させることができなくても、むしろ少しずつ悪化しているように感じることがあったとしても、実際にはプラスなのです。
 ウツは難しい病気ですから、魔法ようにいきなり何もかもよくなるようなことはありません。5000兆円もらえたらもしかするとかなり回復するかもしれませんが、そんなことは考慮に入れる必要はありません。
 今のあなたが自分がプラスであると感じられない、プラスだとしてもほんのわずかなものとしか思えないのだとしても、実はそれで大きなことなのです。だからまず、ご自分を責めるようなことはなさらないでください。

 そしてまた、もう耐えられない、離れたい、でも離れたらこの人がどうなるか、と心配して苦しんでいる方へ。
 他の誰がなんと言おうと、あなたがもう無理だ、離れるしかないと感じたのなら、それは正しい。私はそう思います。
 もう無理だと感じるということは、あなたはがんばったということです。
 離れるしかないと思ったのなら、あなたは賢く判断しているということです。
 ウツはおそろしい病気です。共倒れになることも珍しくありません。
 一番大事なのは、そのおそろしい病気から一人でも多くの人が無事に生還することです。見捨てるようで離れられないと思っている間にあなたまで倒れたのならば、犠牲者が一人増えてしまいます。
 あなたが誰よりも優先して助けなくてはならない人間が一人います。あなた自身です。頭の上のハエを追えってやつです。あなたは全力であなたをきっちりしっかり守った上でそれでも余力がある場合にのみ、他人に手を伸ばせばいいのです。
 あなたが離れた結果、相手の方に最悪の事が起こるかもしれません。
 ですがそれは、決してあなたのせいではないのです。だってあなたがいても同じようなことは起きたかもしれない。
 私がいてもセキゼキは、マンションから飛び降りました。もう数階ぶん階段をのぼっていれば、彼は死んでいました。そんなものです。
 それにあなたがいなくなったとしても、相手の方が亡くなるとは限らない。この世はなかなか複雑な因果律で動いています。もしかしたらあなたがいなくなることで病状が悪化しすぎて、相手の方は自殺することすらできなくなり、結果的に生き延びる、ということだってじゅうぶんにありえるわけですから。

 悩み苦しんだ結果、あなたが出した結論を、私は支持します。
 離れたほうが賢いと思っていても離れられない方。そういうことってありますよ。賢く振る舞うことが必ずしも良い結果に繋がるわけじゃないんですから、あなたの気が済むようにすればよい。
 がんばっているのに事態が好転せず、悩んでいる方。そういうこともありますよ。運が悪いときは、何をしても駄目なものです。少し休んでみてもよいのでは? 元気になったら、今度はうまくいくかもしれない。うまくいかなかったとしても、元気になっただけプラスでしょ? いずれにせよ、あなたは悪くありません。
 離れたくないけど、離れることにした方。あなたはとても重要な決断をしました。あなたの人生なのですから、あなたは自身を最優先する義務があります。生き延びてください。

 もしもあなたが私のごく身近な人間であれば、こんな風に支持することはできないかもしれません。
 目の前にいて、状況がいろいろ見えてしまえば、つい何かを思ってしまったりしますからね。そうしたら口をつぐんでしまうかもしれません。
 だって自分の発言で目前の状況が変化したらと思うと、責任を恐れてしまうので。
 ですが幸か不幸か、あなたは私のそばにいるわけではありませんので。ですから私は、無責任かもしれませんが、あなたを支持します。
 逃げてもいいし、逃げなくてもいい。いずれにせよ、あなたはご自身を責めないでください。
 あなたが自分をしっかり優先して、十分考えた末に出した結論ならば、それこそが正しいのです。