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だらだら書きますので、だらだら読んでもらえるとありがたく。

あなたの貸付限度額


「ごめん、本当に悪かった。許してくれ」
「え、別にいいよ、許すユルス」
「ほんと?」
「うん、これからは君との付き合い方を変えるだけだから。自分には人を見る目がなかったなあって。だからこれからは、その程度の付き合いになっちゃうだけで、問題はないでしょ」
「……いや、それ許してないよね」
「うーん、じゃあ君はこれからも今までと同程度に信頼して欲しいのか」
「うん」
「わかった、じゃあねえ……コレコレ、こういうことをして貰えないかなあ」
「……えっ」
「無茶なお願いじゃないよね? それをしてくれれば、信頼するよ。正当な要求ですらあるでしょ。それが理解できる君だよねえ?」
「理解できますし、ごもっともだと思いますがしかし! それはちょっと……だって、それって、こっちにも事情があって、なかなか出来ないことだし」
「そうだよねえ。出来ない理由もわかるんだ、実際。君の事情を、私は理解してるつもり。だから別にしなくてもいいよ、そんなこと」
「ありがとう! そう言われると救われます」
「だからさ、かわりに私の事情も理解してよ」
「と、おっしゃいますと?」
「たとえ話するけど、いい?」
「どうぞ」


「君がこれから消費者金融に行くとする。初めての消費者金融だ。そして君は、自分が思ったよりわずかな金額しか借りられない事実に直面するだろう。それ以上は無理なんだよ」
「え、なんで?」
「返済能力がないかもしれない相手に、たくさん貸すと回収できないかもしれない。その結果、金貸しが倒れてしまうわけだね。だから貸付限度額というものが、設定されるわけだ」
「ああー、ナルホドね」
「では、それ以上の金額を借りるためには、どうすればいいかわかる?」
「わかんない。行ったことないもん、消費者金融
「私もないけどな。後学のために覚えておけ。借りた金を、きっちり返せばいいんだ。借りる、返す、借りる、返す。それを繰り返すことで実績というものができて、向こうは君の返済能力と、返す意志を高く評価してくれるようになるわけだよ。そうしてやっと、今までよりたくさんのお金を貸してくれる」
「へー……よく知ってるねシロイ」
「そしてそう、信頼というのも、貸し付けなんだよ、わかるか?」
「……えっ?」


「裏切られたという言葉が、私は嫌いだ。だから私は最初から誰かを信頼するときは、裏切られても構わないだけの信頼限度額を用意する。低めの信頼だ。それを踏み倒されても、私は気にしないし、揺らがない。踏み倒されたなら、それ以上その人間を信頼しなければいい話だ」
「……はい」
「君は今まで、私の信頼にある程度応えてくれたよ。そして私も、出来る限り君の信頼に応えたつもりだ」
「……そうだね」
「けれど君は今回、私の信頼を踏み倒したわけだよ。それは自覚してるね?」
「そう言われると……そうかもしれないけど」
「だから私は、次回からは君に、低めの信頼限度額を設定する。そうしなければ、私は揺らぐし、傷つく。今回は傷つかずに済んだ。けれど次回は、必ずぼろぼろになるだろう。
私は裏切られたという言葉が嫌いだ。そして、その言葉を使わないためには、信頼限度額をきちんと設定する必要があるんだよ。
君がもしも、私の頼みを聞いてくれれば、それは『返済』と言えるだろう。私は再び、君を同じだけ信頼するよ。だって私は、君を信頼したいからな。
けれど君は、『返済』しかねる事情があると言う。それも理解できるさ。けれど返済してくれない相手に貸し付けを続ければ、いずれ私が倒れてしまうんだよ。
それが私の事情なんだ。理解して欲しい」
「つまりこれっきり?」
「そうだね、君が『返済』しないのであれば」



踏み倒されてもボランティアでもいいから、いくらでも信頼を貸し付けることの出来る人間は尊いかもしれないが、私はそうはなれません。それが嫌になるときもありますが、私にも保身の権利がありますよね?
私が私を守らなきゃ、誰が守ってくれるっていうのさ。