最近の私は、気を抜くと頭の中でカレーを作っています。
頭の中で野菜や骨付き肉やルーを買い、頭の中で野菜を刻み、頭の中で野菜と肉をぐつぐつと煮込み、頭の中で火を止めた鍋にグーを割りいれ、頭の中でかためのごはんを炊き、頭の中でカレーを一晩寝かせます。
何でこんな事になったかというと、私が現在、歯の矯正中だからです。
セラミックの装具まわりが黄色く汚れるからカレーを食べるな、と歯科医に止められておるからです。
そして歯の矯正は、最短でも八ヶ月間続く予定なのです。
耐えられない!
正月、おせちに飽きたとき、カレーを食べたくなる人種と、ラーメンを食べたくなる人種に分かれるのが日本人であると、かの大作家清水義範先生がおっしゃっていました。
今までの私は「ラーメン原理主義者」でした。
追い詰められた心が最後に向かう場所はラーメンでしかありえなかったのです。
もちろんカレーのことだって愛してはいましたが、私がより深い愛情を捧げる相手はラーメンだったんです。
ところがですよ。
歯科医によってカレーを禁じられて以来、私の頭の中でカレーへの思い募る一方。
くる日もくる日もカレーのことが頭から離れず、近所の家の換気扇からカレーのにおいが漂ったり、平積みされた「ハツカレ」を見たりするたびに、胸のドキドキが高鳴っちゃうんです。
しょうがないから普段より頻度をあげてラーメンを食べたりしてるんですが、カレーへの飢えはラーメンでは満たせないのです。
おそらくこれが不倫に走ってしまう人間の心理なのでしょう。
心から愛している、間違いなくナンバーワンだと思える相手(ラーメン)と結婚したはずなのに、禁じられた二番手の相手(カレー)が突然魅惑的に思えてきてしまうこの恐ろしさ。
だけど私、負けない。
歯医者さんと約束したもの。
真っ白な歯を保とうねって、そう約束したんだもの。
みたいに自分に言い聞かせてがんばっていたら、先日外出先で何気なく注文したミックスピラフがカレー味でした。
自分で注文したものを「話が違うじゃないか」とつき返すわけにもいかずに食べたら、見事に歯が黄色くなりました。
本物のカレーですらないミックスピラフごときが、私の今までの努力を無にしてくれたときのこのやるせなさ、皆さんにもわかっていただけますでしょうか。