友人のマオカ(仮名)が引っ越して、そこに遊びに行ったときの話です。
彼の引っ越し先のアパートにはエレベーターがありました。
そのエレベーターに乗り込むと、マオカがものすごく嬉しそうな顔で、
「いま気付いたんだけど、エレベーターに乗るとき、ひとは必ず、足元を見ながら乗るね! 目線がいつも下だよね!」
と言いました。
「言われてみればそうだね」
「でしょ? てことはだよ」
と得意げに胸を膨らませるマオカ。
「もしも天井に悪のリー・リンチェイが張り付いていても、みんな気付かないってことだよ。大変だね!」
マオカは自分が少林寺拳法黒帯だったりする影響もあるのか、リー・リンチェイが大好きなのです。
「えっ? 悪のリー・リンチェイ? リー・リンチェイってべつに悪じゃないでしょ?」
「だから、これはもしもの話なんだよ。悪のシロイでも、悪のぼくでもいいけど、ぼくたちは天井に張り付けないでしょ! だからリー・リンチェイ。悪の」
「それは……なんていうか……その……大変だね。リー・リンチェイがこのエレベーターの天井に張り付いていたら、ほんと色々大変だよ」
「だけどさー、折角張り付いても、みんなエレベーターが動き出すと階数表示を見ようとして逆に目線を上げちゃうから、今度は確実に気付かれちゃうんだよ! だからリー・リンチェイは、敵が乗り込む一瞬を狙って、一気呵成に攻撃を仕掛けなきゃいけないんだよ。難しいね!」
「ふーん……じゃあさ、階数表示板と反対側の隅に張り付いていたらいいんじゃないかなあ」
「違うよー。ぼくが言いたいのはそういうことじゃないよ。判ってないなあ、もう」
叱られた? え、まさか私、最後に叱られた?
確かにある意味何もかもが判んないけどさあ。