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だらだら書きますので、だらだら読んでもらえるとありがたく。

私が男性だった頃〜完結編〜

注意事項

※以下の記事は私の人生でかつて実際に起こったことが元ネタになっているんですけど、「現実世界というのは物語世界みたいに綺麗なオチがつくとは限らないし、それよりも大事なことは話が面白くなることだ、私は事実よりも娯楽性を重んじる!」というシロイの歪んだ信念によって、事実をある程度改変してあります。そのへんを踏まえた上でお楽しみください。

ちなみにその1はコチラ、その2はコチラ、その3はコチラ、その4はコチラでございます。

私が男性だった頃〜完結編〜

はじめてのオフ会参加を決めた私は、
「この事態を綺麗に解決する策はないか」
と思い悩み(しかし何を解決すべきなのかもよくわからない)、
「ああ、戦国武将が軍師を欲しがったわけだよ。あたしが今軍師欲しいもの」
とおそらくホンモノの武将が聞いたら「一緒にするな」と怒り出すようなことをぼやきながら、結局無策のまま、オフ会当日に臨んで……何事もなく終わりました。(現実なんてそんなもんだよ。オチなんてないのさ)


いやもちろん、
「えっ! 嘘だろ。あんたがシロイ……だまされたああああ」
「お前女だったのかよ! そうだと判っていればあんな赤裸々な打ち明け話しなかったのにっ」
「えー、あたし正直言って、今日は本物のシロイさんがどれだけかっこいいか見るのが、一番の楽しみだったのにぃ」
みたいなことは言われましたよ。気まずい思いもたっぷりと味わいました。


だけど、そんなことはオフ会全体の流れで見れば、とても些細なことだったのです。
シロイが好青年か否かなんて、本当にどうでもいいことだった。


そう。
あの二人の大人物に比べれば、私はちっぽけな小物だったんですよ。
というわけで二人の強烈な大人物――DさんとBさんの話をします。


二人はまず、夜なのにサングラスをかけた状態で会場に現れることで、人々の注意を惹きつけました。
「よく来てくれました。幹事のRです」
そう言っていそいそと二人を迎えたRの口元にはどことなく皮肉な笑みが浮かんでおり……次の瞬間、Rはオフ会全体の流れを変える、決定的な台詞を口にしました。
「ところで君たち、どうしてもうひとつの名前を名乗らないの? ……なあ、ふたりのぷりんちゃんたち」
サングラスの向こうで二人の顔から血の気が引くのがわかりました。
「なんのことだか判らない。誰だよそれ?」
そう言いながらも小刻みに肩を震わせるDさん。
「判らないはずないだろう。ぷりんちゃんは君たちと同じ学校の生徒じゃないか」
「な、なんでそんなこと知ってるんだ」
「IP見れば判るよ。同じだから」
「あっ」


DさんとBさんは同じ専門学校の生徒で、彼らは自宅からではなく、学校のコンピュータルームを利用してチャットを楽しんでいたのです。そういう事情はIPを見ればある程度わかってしまいますし、彼ら自身もそう語っていた。
(あの学校からアクセスしているメンバーはけっこう多いんだよな……DとB以外にも何人かいたはず。でもぷりんちゃんて知らないなー)
私がそう考えながら首を傾げていると、Rが淡々とした口調で、以下のようなことを語り始めました。


Dさんはチャットで女性をナンパしよう考えていたのですが、なかなか上手くいきませんでした。
「どうすればいいんんだ」
悩んだ挙句彼は、女になりますまして女性の警戒心を解き、個人情報を聞き出すことを思いつきます。名づけて「女同士なんだから隠さず色々教えてよ♪」作戦。


そのときにDさんが使っていた名前がぷりんちゃん。*1
そしてBさんはDさんのネカマ行為を知りつつ、それを止めなかった。むしろけしかけていたのですね。
というよりもそもそも、Dさんにネカマ行為のアイディアを与えたのはBさんだったようです。


やがて二人はDさんが講義を受けている間はBさんがぷりんちゃんになり、Bさんが講義を受けている間はDさんがぷりんちゃんになるという、「ぷりんちゃん共同体」を結成。
そうやって助け合って女性の情報を収集し、共有しようと考えていたのですね。
ですが、この作戦もなかなか上手くいかない。
女の子のはずなのに男性には見向きもしないで女性にだけ話しかけ*2、会話もそこそこに住所や連絡先を尋ねてくるぷりんちゃんは、警戒されてしまったのです。


そこで彼らは今度は別の作戦を立て、Dさんとぷりんちゃん(実はB)が同時にチャットルームに入室し、

ぷりん>ぷりんね、この間Dくんとこっそりオフで会っちゃったあ。すっごく☆かっこよかったのお♪  理想のおにいちゃんだよ!
D>やめろよ、ぷりん。照れるだろ。

みたいな会話をすることで女性の興味をひきつけようとしました。このちょっとした芝居は、役柄を交代しながら何度か演じられたそうですが、残念ながら成功例はなく、ついに彼らはオフ会に参加して、直接女性参加者に接触を試みることにしたわけです。


という経緯を何故か。どういうわけか。幹事Rは知っていた。(実はその理由を私は後ほどRから聞き出すのですが、それはまた別の話)


「嘘だ、でたらめだ。そんなことを言っておれたちを貶める気だな!」
「そうだそうだ。それで女の子たちの人気を独り占めする気だろう」
と必死に反論するDさんとBさん。


「なるほどね、君たちはそう思うわけ。だったらちゃんと、出るとこ出て調べようか」
Rは冷静に切り返します。


「IPが判るんだから、君たちの学校がどこなのかも、おれはもう知っているんだよ。学校に連絡してもいいのかな?」
「君たちの学校の同級生たちに、片端から話を聞いてみようか? ぷりんちゃんが誰なのか、その中には知っている人間もいるはずだよね? 君たちがどんなことをPCルームで話し合っていたか教えてくれる人間もいるだろうな。君たち、そんなことされても大丈夫?」
はい、大丈夫じゃありませんでした。
あっさりと罪を認めてしまう二人。
さらにDさんは聞かれてもいないのに「ぷりん」という名前の由来を語り出しました。
彼は18禁のエロ同人誌描きでして、「ぷりん」というのは、それ用のペンネームだったのですね。女性名を使う男性のエロ漫画描きは多いですから。
そのこと自体には実害ないですけどね。でもなんとなく悪印象を生んでしまった。
しかもDくんが
「ぼくにとって、ぷりんというのは理想の女性像を意味する名前なんです。だから決して悪気があったわけじゃなくて、ただ理想の女性になってみたかっただけで……」
とか付け加えたのも、よろしくはなかった。


会場は一度しんと静まり返り、やがて女性陣の非難が集中豪雨のごとく彼らに降り注ぎました。
ネカマ行為で聞き出した女の情報で何をするつもりだったのか」
「それをネタにエロ漫画でも描くつもりか」
「やたらと『会いたい』を連発していたけど、実際に会ったら何をするつもりだったの?」
エロマンガに出てくるような女性を理想だと思われても困ります」
みたいなことになっちゃったのです。


「ほんと、女の子は危ないよな。どこにどういう人間がいるかわかんないし。だからチャットでも個人情報は極力隠して。ちゃんと気をつけないと駄目なんだよ」
Rは厳しい顔つきで語りました。
「シロイをみろよ」
え、わたし?
「シロイなんて、こいつらがネカマだって気付いて、それで用心のために男のふりをしてたんだぞ?」


Rくん。
その誤解は嬉しいけど。
でもそれ誤解なんだ。私が男だということになったのは、彼らとは全く無関係なんだ。私は、彼らがいなくても男だと思われていたはずなんだ。
ていうか、男のふりをした覚えもなかったんだ、最初は。あるがままの自分でいたら、男と思われたんだ。


などと思いながらも私は口をつぐみました。そしてもっともらしく伏し目がちになり、
「電脳世界の殿方は怖いです」
とでも言いたげな神妙な表情を作って見せました。卑怯者と呼びたければドウゾ。しかし私は所詮、自分が一番かわいい凡人でございます。


というわけで
「そうだったの! シロイさんは用心深いんだね」
ということになり、優しく嘘を許される私。
なんだろうコレ……私はオフ会に参加してから最初の数十分をかなり落ち着かない気持ちで過ごしていたのですが、急に空気が変わりました。
たとえ夜空にまばゆくきらめく星であっても、太陽がのぼればその姿が見えなくなるように、私の好青年詐称は、いつの間にか霞んでしまい、なんだかどうでもいいことに。
うわー、何がなんだかもうわからねえ。誤解に誤解が重なった気がするけど、裏の裏は表みたいなもんで、きっと最初に戻ったんだよな?(そんなことはない)
……まあいっか、だってよっぱらいだもん きょうのわたしはよっぱらいであってわたしじゃないのよ。(cf.二ノ宮知子「平成よっぱらい研究所」)
もういいや、とにかく酒飲んじゃえ! そんで騒いじゃえ!!
「すいませーん、生グレープフルーツハイを一つ追加してください」

はじめてのオフ会の夜は、そんな風に過ぎ去ったのでした。


その後そのチャットルームでは。


様々な人物が現れて様々な騒動を繰り広げ、荒らしが大量に押しかけたり、ネット恋愛が横行して「ビバリーヒルズ青春白書」みたいになったり、そりゃあもう大騒ぎで、三大いい男仲間のGとRも当然主要登場人物の一人として活躍を見せ付けてくれたわけですが。


女だか男だか判らない微妙なスタンスを保ってしまった私は、どのドロドロにも巻き込まれず平穏な日々を過ごしたのでした。
やがてチャットルームは閉鎖。今ではみんな、いい思い出です。
私もチャット、全然やらなくなったなあ……もう好青年ぶりも錆び付いたことでしょう。


と思って数年ぶりにあるとき、別のチャットルームにまた男として一回だけ入室してみたら。 そのとき話した十代の子から
「今まで話した中で一番素敵なひとでした」
とかいうメール貰っちゃったよママン。 よかった捨てメアドで……。(そういう問題か)


というわけで。
あと数年は「性別詐称」は危険な遊びとして禁じておいたほうがよさそうです。


これにて「私が男性だった頃」は完結。
だらだらとした長文、たいへん失礼いたしました。
ここまで読んでくれた方々に心からの感謝を捧げて、結びとさせていただきます。
本当にありがとうございました。




(と言いつつ最後にこんなのを付け足したりして。番外編

*1:ただし、これは私がつけた仮名で、実際に使っていた名前は違います。雰囲気は似せてありますが。

*2:だから私はぷりんちゃんの存在を知らなかったのです。男だと思われていたシロイは、彼らにとって用がなかったから。