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だらだら書きますので、だらだら読んでもらえるとありがたく。

セキュリティポリシーとデザイン・ベイビー

「シロイさん」
と隣の席のカサキさん(仮名)に声をかけられました。
「会社のセキュリティポリシーなんで、机の上に個人情報が知られそうなモノがあったら片づけてください。うん、でもまあ、何もなさそうですね」
そういってカサキさんは去っていったわけですし、私も
「なさそうですね」
と答えたわけですが、次の瞬間、私の目は机の上のある一点に吸い寄せられました。


そこに置いてあったのは、キシリトールガム。
「チューインガムって思えば、たっぷり唾液を含んでいるよなあ……」
「あの唾液からDNA情報とか調べられないんだろうか? 少なくとも血液型くらいはわかりそうだな」
「DNA情報って、究極の個人情報の宝庫って気がしない? 生命の情報が全て書き込まれているんだよ!」

時は20XX年。人類はDNA情報の完全な解析をやりとげた。
その結果、精子バンクの業務形態は変化する。DNA情報を用いて、次世代の人間たちをより「完璧な」存在に改良しようと一般の夫婦にも呼びかけ、顧客層の拡大を狙い始めたのだ。男女双方の遺伝子のマッチングを調べ、最も高い能力を持った子どもが生まれるための組み合わせを顧客に提案。それによって顧客たちは、生まれる前に顔かたち、身長、体重、寿命、知能レベル、身体能力などを調べた上で、気に入った子どもだけを選んで産むことができるようになり、デザイン・ベイビーブームが到来する。
デザイン・ベイビーであらざるものは、ひとであらず。そう言われるほどに、ブームは加熱した。
だが、デザイン・ベイビーは未だ高価な「商品」であり、富裕層でない人間たちには望むらくもない「贅沢」であった。その結果、富裕層の子どもたちは皆デザイン・ベイビーとなり、貧困層ナチュラルボーン・ベイビーしか持つことができず、社会はいっそうはっきりと二つに分かたれるようになっていく。
デザイン・ベイビーの世界では、全ての遺伝的・先天的な病、障害が駆逐される。いやむしろ、正常で健全であっても「望ましくない」と考えられやすい特徴すら、すべて排除されていく。その結果、容貌の醜い者、太りやすい体質の者、運動能力の低い者、身体が丈夫でない者、知能程度の劣る者などは、デザイン・ベイビーの世界にはいない。
運を天に任せて昔ながらの方法で子どもを作る人間は、「事前にどのような結果になるかも調べずに、子どもの将来がどうなってもいいと思っている思いやりのない親」として、富裕層には蔑まれる。
進学、就職、結婚、出世、全ての局面で「将来に望みが持てない者」として差別されるナチュラルボーン・ベイビーたち。
ナチュラルボーン・ベイビーは結婚するべきじゃないし、結婚しても子どもを作るべきじゃないと思います。自分たちの欠点を次世代に残しても平気だなんて、とても非人道的だと思うわ」
などと画面の中でほざくデザイン・ベイビーの顔は、その恵まれた遺伝形質ゆえにあまりにも美しく、ナチュラルボーン・ベイビーでしかないシロイ・ケイキは悔し涙を流すのであった。

というどっかで聞いたようなSFストーリーがいきなり脳内を占拠する午前十時。
「そして思いあまったシロイ・ケイキはこう考えるんだ、『私は運動も苦手だし、視力も悪い。しょせん、ナチュラルボーン・ベイビーだからな。就職活動だって、おかげで苦労してるさ……だが、コンタクトをつけて、人前で運動することを避ければ、もしかしてナチュラルボーン・ベイビーであることを隠し通すことができるかもしれないぞ』とね」
「そうやって隠し続けて四ヶ月。おのれがデザイン・ベイビーであると偽って現在の会社に滑り込んだシロイ・ケイキは」
「チューインガムの唾液を調べられて遺伝情報を解析されてしまい」
ナチュラルボーン・ベイビーであることを暴かれるのだった! そして社内で迫害されるのであった!!」
「こえー、チューインガムちょうこええ! ちょう個人情報の宝庫。ちょう隠したい情報山盛り。早く机の上のチューインガムを片づけるんだっ!!」


とか思いながら手を伸ばしかけて気付いたんですけど、もしかして唾液を含んでいるのはあくまで「噛んだ後の」ガムであって、噛む前のガムがいくら机の上にあっても関係ないんじゃない? もしかしなくてもそうじゃない?
ああ、つーか、その前にまだデザイン・ベイビーはあんまり作られてないんだよね? たぶん? ニューヨークあたりにはいるかもしれないけど?(勝手なイメージ)
あなたも私もナチュラルボーン・ベイビー? なのよね? まだ現時点では?


というか、もうそのときには、自分で自分のどこに突っ込んでいいかわからなくなっていました。こういうことばかり考えているから、オフィスで無駄に疲れるのでしょうか。