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だらだら書きますので、だらだら読んでもらえるとありがたく。

大人の社会科見学その2

事前注意

今回私が書きましたオリエント工業ショールーム見学の記録は、私の二年前の経験がもとになっておりますので、2006年現在とは、いささか様子が異なっている部分があるかもしれません。その点をご了承の上でお読み下さいませ。
その1はコチラでございます。

本文

オリエント工業ショールーム見学は、30分ずつの交代制になっていますので、私たちはあの場所に、わずかな時間しかいられませんでした。
しかし、私の心の中では大体三時間はあそこにいたんじゃないか、というほどのインパクトがありました。


まず、ファーストインプレッションがすごかった。
ごく普通のありふれた佇まいの雑居ビルの二階に上がっていくと、いきなりドアが開け放たれており、正面のソファに下着姿のお人形さんたちが並んで座っているのを見た瞬間の衝撃といったら。
というか、下着姿ならばまだいい。確かにちょっと驚くけれども、予想の範疇内です(そうか?)。
私を心底愕然とさせたのは、下半身丸裸状態で股を開き気味に正面を向いて座っているお人形さんの姿でした。
真っ昼間の雑居ビルの階段を上がっていくと、そこでは人間の女性とよく似た姿形(しかも美形)の存在が、むき出しの股間を出入り口にむけてさらけ出していましたってアナタ。トンネルを抜けたら雪国だったなんて驚きは、これに比べればたいしたことないと断言できます。
しかもしかも、その下半身丸裸のお人形さんの股間には、ぽっかりと巨大な穴が空いているんです。
あれを見た瞬間に、「自分は異界に迷い込んだのだ」という気持ちがすごくしました。


ラブドールをセクシャルに使用するとき(この言い回しはオリエント工業のサイトから借りてきました)、股間の穴にウェーブホールと呼ばれるパーツを装着するんだそうです。そんで、普段ウェーブホールを外した状態のときは、その穴には肌色の蓋を閉められるようになっているんですが、どうやらあのお人形さんは、お客様に下半身の構造を教えてあげるために、蓋なしの黒々とした穴を敢えて外気と視線に晒してくれていたようでございます。


下半身むき出しで座る人形の顔は、あくまで平静で上品。
あそこに座っているのが人間だったら、あんな風に落ち着いてはいられないだろうなあ、さすが人形、おれたちにできない事を平然とやってのけるッ、そこにシビれる! あこがれるゥ、とか心の中で呟いてみます。
それにしても人形の顔が綺麗なだけに、むきだしとなった穴の露骨さが、いっそうまがまがしさを漂わせています。


「ようこそいらっしゃいました」
ひとりのおにいさんが私たちを出迎えてくださりました。
(あっ、この声は知ってるぞ。このひとが電話で応対してくれたひとだ)
電話で予約を入れたとときも思いましたが、このおにいさんがとにかくにこやかではきはきしてて、誠実そうで、明るい。
ラブドール→アダルト産業→秘密めいて声をひそめる雰囲気? みたいなイメージを勝手に抱いていた私たち一行にとっては、このおにいさんの陽性っぷりは、なんだか予想を裏切られるかんじです。


店内にはずらりとお人形さんたちが並んでいます。全員下着姿だったらどうしよう、さすがに目のやり場に困る、などと考えていたのですが、そんなこともなく、ちゃんとフツウの服を着ています。
「……いや、そうでもないな」
私はスクール水着を着ているお人形さんを見つけてしまいました。隣には白いブラウスとチェックのスカートに、リボンタイをつけた、制服のような格好の子もいます。やはりここは異界です。
「なるほど、これがプチシリーズか」


オリエント工業のお人形さんは、身長150㎝の子と140㎝の子の二つのタイプに分かれており、人間の女性の基準で考えると、いずれにせよ小柄です。
彼女たちは人形ですから、運搬や収納のことを考えると、軽量化が絶対に必要であり、だからこそ小さめに作られているのでしょう。
150㎝タイプの子たちは、小柄といいながらも、体型のバランスなどの関係で、少女というよりは、若い女に近く見えます。
ですが、140㎝タイプのプチシリーズと呼ばれる子たちは、はっきりと幼い。ただ小さいのではなく、体型や表情も幼いかんじなのです。若い女というよりは、少女。
だからこそ、そういうのが好きなひとたちが彼女たちを選ぶんだろうなというか、そういう好みのひとたちにアピールするためにはもちろん、スクール水着や制服を着せた状態でディスプレイするのは正しいんだけど、なんだろう、この居心地の悪さは。


「ほらほらHくん、スクール水着の子がいるよ!」
弾んだ声でLが言うと、H先生は、心底嫌そうな顔をしました。
「やめてよLさん、そういうこと言われると、まるでおれがそっちの趣味がある男みたいに思われるじゃないか」
「喜ぶかと思って教えてあげたのにー。違うの?」
「違うにきまってんじゃないか、おれを勝手にロリコン扱いするなあっ! つーかLさん酷すぎるよマジで」
二人の会話を聞いているうちに私は、自分がなぜ動揺しているのか、その理由に気付きました。


その日、ショールーム見学にあたって、
「本日はどうしてこちらにいらっしゃったんですか?」
と尋ねられたときのために、私たち三人は設定を決めていました。

アルツハイマーに冒された祖父は、最近色ボケ気味で、施設で問題行動を起こすようになっていた。周囲の人間たちは「おじいちゃん我慢して」というだけで、なんら具体的な解決策を持たない。
けれど、そんな言葉になんの意味がある? 祖父は生きている。生きている以上、そのような欲望があるのは当たり前だし、アルツハイマーなのだから欲望のコントロールができないのも当たり前だ。
かといって、祖父のために生身の女性を見つけてくるのは色んな意味で問題がありすぎるのも確かだ。
そんなとき、孫の一人であるシロイ・ケイキが、ネットでオリエント工業のサイトに巡り会い、ラブドールの存在を知り、「これだ!」と悟ったのだ。
そしてシロイ・ケイキはイトコたちに呼びかけて今日集まり、孫たちは祖父へのプレゼントを検討するために、このショールームにやってきたのだった。

というのがそれです。H先生とLは、一日だけの臨時イトコです。


その頃、私には実際にアルツハイマーに冒されている祖父がいました。
だからこそ、「祖父のプレゼント選び」という名目で訪れたショールームでプチシリーズを見ていると、なんともいたたまれない気持ちになってしまったのです。
「頼むからおじいちゃん、スクール水着で喜んだりしないで! プチシリーズより150㎝サイズの子たちのほうがイイって言って!」
心の中で懇願する私。いつのまにか設定と現実を混同しています。
ちなみに、プチシリーズから少し離れた場所には、アニメ顔の等身大フィギュアオリエント工業の姉妹会社であるファンタスティック社の商品。ボディ部分がオリエント工業の製品と共通)も置いてあったのですが、それを見たときも
「おじいちゃん頼むからコレがいいとか言わないでええええ」
などと考えてしまいました。もちろん、冷静に考えれば、祖父がプチシリーズを欲しがることがあっても、アニメ顔フィギュアを欲しがる可能性はゼロに等しい。このときばかりは、私はジェネレーションギャップに感謝しました。


「二人とも、そんなスクール水着を着ているタイプの子は、おじいちゃん向けじゃないでしょう?」
プチシリーズの前を立ち去るために、とりあえずそう言ってみる私。すると二人も設定を思い出したらしく、
「そうだね。もっと大人っぽいのがいいね」
と言いながら、150㎝タイプの子が陳列されているあたりに戻ってきました。
やっと落ち着いた気持ちで人形が鑑賞できます。


ラブドールは、ソフトビニール製のものと、シリコン製のものがあるんですが、私は断然、シリコンのほうが気に入りました。
ソフビのほうは見た目はともかく、触ってみるといかにも無生物っぽい肌触りなんですが、シリコンの肌は違うのです。
ひんやりと冷たく、やわらかで、吸い付くような感触。
人肌とは違うのですが、にも関わらず、これはこれでものすごく何かの肌っぽい。ひとと違った生き物の中には、こういう感触の肌を持ったものがいるのかもしれない、と思わされるのですね。
たとえば雪女だのバンシーだの、そういったヒトの形を持ちながらヒトであらざるモノが実在するとしたらこんな肌なのかもしれない、と思ってしまいます。


「シリコンて気持ちいいんだね!」
夢中になってお人形さんの肌を触りまくる私たち。
「サイトで写真を見ているときは、ソフビ製の人形でもいいような気がしていたけど、実際にこの肌触りを知ってしまうと、断然シリコン製のほうが欲しくなっちゃうなー。見学にいらした他のお客様も、そんな風に言うんじゃありません?」
と私がたずねると、おにいさんは
「お値段の問題がございますので」
と微笑みました。
そうなのです。シリコン製のお人形さんは、ジュエルシリーズと呼ばれているのですが、宝石という名の示すとおり最高級品でございまして、ソフビ製のお人形さんよりずっとずっと高いのです。


「あー、確かにそれはそうですねえ……でも、どっちみちラブドールを買うときって、ある程度思い切った出費を覚悟しなきゃならないんだし、だったら私は妥協せずにシリコン製を買いたいですよ!」
と熱く主張する私。その情熱がどこに向かっているかは不明です。
「逆に、ここまで良くできたものがこのお値段というのは、すごく良心的なんじゃないですか? ちっとも高いとは思えないです」
という言葉に、おにいさんは本当に嬉しそうないい顔をしながら、
「ありがとうございます」
と言いました。


「指の先がすごい! ちゃんと爪の形になってる」
「指とか二の腕のラインとか、脇の下とかふくらはぎとか、そういう細かいところまで全部、身体のラインが綺麗でちゃんとしてるよねえ。どこにも手を抜いてないかんじがするよ。すばらしい造形美」
「やっぱりこの顔、すごい美人だよー。唇の色合いが絶品すぎる」
「まつげながーい。目がきれい」
「シリコンの肌って、透明感があっていいねえ」
などと口々にお人形さんを誉め讃えながら、私たちはお互いの様子を鋭く窺っていました。ココロの中は皆、同じ一つの思いで満たされています。
胸。
そうなのです、胸を触って、揉んでみたいのです。ここまでよくできたお人形である以上、胸だってそうとうハイレベルな触り心地の筈。それがどこまでよくできているか、知らずに済ませることはできません。
ああ、なのに。
なんだろう、このためらいは。


お人形さんたちは、どの子も本当に、美しい顔をしています。清楚で、上品で、妖精や天使のような清らかさをそなえているのです。
こんなに清らかな子たちの胸を触っていいのか、揉んでいいのか? そんな非道な振る舞いが許されるのか!?
そんなふうに思うと、伸ばしかけた手は、震えながら空中で止まってしまいます。けれど、諦めることだって出来かねるのです。ああっ、誰かが先に触ってくれればなぁ、そうすれば私も便乗できるのに……
などと私が葛藤していると、Lがさらっと
「Hくん、胸を触りなよ」
と涼しい顔ですすめやがりました。


「ああっ!? なんでぼくが?」
「いや、触りたいんじゃないかなーと思って」
「Lさんはどうなんです? 触りたくないの?」
「触りたいけどー、Hくんのほうがより触りたがっているんじゃない? だって、オトコノコなんだし?」


やるなL! その手があったか。性別をたてにとって、まずHくんに泥をかぶってもらおうという戦法か。でかした。
「そうだよHくん、触りなよ。先を譲るよ」
「ちょっ、なんでシロイさんまでそんなこと言い出してるの?」
「触りたくないわけ?」
「触りたいけれども! っていうか、今なんかすごい恥ずかしいこと言わされた感があるの、気のせい?」
「大丈夫だよ、私たちだって触りたいよ。恥ずかしくなんてナイ」
「じゃあ自分たちが触れよ! だいたい、女性ふたりにかわるがわる胸を触るようすすめられるシチュエーションって変すぎるだろ!! この状況では逆に触れんわ!」
しまった、それもそうだな……ならば。
「じゃあ私が一番乗りしようっと……あああっ、や、やわらかーい。シリコンが吸い付くようです」


私がそう言うと、H先生とLも封印が解けたように、積極的に動き出しました。
「ええっ、じゃあ次わたしー」
「あっ、だったらぼくはLさんの次」


お人形さんの胸の柔らかさは、なんともいえず優しいかんじのものでした。人肌とは違うシリコンの肌触りのせいもあって、人間の胸とは違った感触なのですが、それはそれで気持ちよくてリアルなかんじ。
「うーん、予想通りだけど、胸も良くできていますねえ」
などと感心しながら私は、胸揉みの順番を次のひとに譲り、何気なく、お人形さんの身体の別の部分に触れて、さらなる衝撃を味わうことになるのでした。
というところで更に次回へ