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だらだら書きますので、だらだら読んでもらえるとありがたく。

『むしろウツだから結婚かと』第6話~みんな違って、みんないい。けどそれだけじゃない

  本日2月10日に『むしろウツなので結婚かと』の第6話が更新されました。
comic-days.com
 今回は多様性に潜む罠のお話をします。ナニソレ関係あるのかよこの話にってかんじですが、関係あるんです。

 えー、多様性というのは生き物にとってとても大事なことです。
 一つの要因で種が絶滅したりすることを避けるために多様性は必要です。多様性あればこそ環境や社会の変化に適応できる個体が残って、種が生き延びることができるわけで。
 みんな違って、みんないい。素敵な言葉です。
 いろんな人間がいるからこそ、人類にはいろんな可能性があるのですから。多様性って本当に素晴らしいですね。
 とまあ、こうやってひたすら多様性の素晴らしさを讃え続けることはいくらでもできるわけですが、そこに
罠がないわけでもなく、多様性で苦労することってのもあっちゃうんですよねー。
 さて、それではここで抗うつ薬による治療の流れを簡単に書きます。
 まず抗うつ薬というのは色々な種類があります。その種類についての説明はここでは省きますから、興味ある方はwikiとか見ればいいじゃない。
 医学の世界は進歩が目覚ましく、抗うつ薬も様々なものが開発されています。
 新しい薬の方が副作用が少ないとかメリットが色々あるわけですが、体質的に古い薬の方が効くという方もいらっしゃいます。
 このたっっくさんある抗うつ薬。誰がどれを飲んでも効くというわけではありません。
 Aさんにはよく効く薬が、Bさんにはほとんど効かないということもよくあるのです。だからこそいろんな種類の抗うつ薬があるわけですね。
 これこそが多様性に潜む罠です。すべての人間の体が完全に同じものではなく、個々人によって様々な体質があるからこそ、薬の効き方も変わってきてしまうのです。
 まあこれは抗うつ薬に限った話ではありません。抗がん剤なんかもそうです。既存の薬が効きづらい人がいるからこそ、そういった人たちを治療するために新しい薬の開発が続けられるわけです。
 さてこの多種多様な抗うつ薬。どの薬が効くのかというのは飲んでみないとよくわかりません。
 ですから、治療が始まった時に処方された薬が効くかどうかは確実な話ではないのです。
 更に抗うつ薬というのは飲んですぐ効くものではありません。効果が現れるまで大体2週間ぐらいかかると言われています
 というわけで辛くてたまらない中、藁にすがるような思いで真面目に薬を飲み続けて2週間経ってみたら
「この薬効かないじゃん!」
 ということがわかったりするわけです。
 そんでしょうがないからまた今度は別の薬を試してみる。
 2週間。効けばいいなと願いながら。また効かないかもしれないと怯えながら。
 合う薬が見つかるまでは、基本的にこの繰り返しになります。

 どうですかこの流れ。
 ソシャゲのリセマラにすごく似てると思いませんか。
 そんな事言われてもよくわかんないリセマラって何? とお思いの方のために説明します。知ってる方はこのあと数行飛ばしてください。
 リセマラとはリセットマラソンの略です。ソーシャルゲームはしばしば開始時に、強いキャラやアイテムが当たる「かもしれない」ガチャ(という言葉すら知らない方はクジだと思ってください。似たようなものです)を回すことができるようになっています。
 このガチャは何回でも好きなだけ回せるものではなく、多くは有料です。しかも当たりと言えるキャラやアイテムが出てくる確率はかなり低い。
 であるがゆえに、ゲーム開始時に無料で回せるガチャで当たりが出るとたいへんありがたいのです。ゲームを始めてからラクが出来るし、次にまたガチャを回せるのはいつになるかわからないし、回せても当たりがでるとは限らないから。
 というわけでこの無料ガチャで当たりが出なかったとき、ゲームをスマホから削除してもう一回インストールし直してガチャを回し直す人がけっこういるのです。このゲーム削除再インストールを、納得のいく結果が出るまで繰り返す作業。これをリセットマラソン、略してリセマラと呼ぶわけです。
「ええー、なにそれめんどくさい。何度もやり直すくらいなら、当たりが出なくてもいいからそのまま遊んだほうが楽しくない?」
 とお思いの方。実は私もそう考えちゃう派です。めんどくさいですよねえ、そんな繰り返し。いつ出るともしれない当たりを追い求めてどれだけの時間を費やすのか、考えただけでも気が遠くなります。
 実際、同じ絵を見て同じことを説明されて同じ作業を繰り返すことに飽きちゃったり、リセマラが辛すぎてプレイを始める前にゲームを止めてしまう人もいるくらいです。

 でもね。
 自分に効く抗うつ薬にめぐりあうためのリセマラは、もっと過酷なんですよ。
 どんなゲームだって、一度リセットするために2週間かかったりはしません。2週間がかりのリセットを繰り返さなくちゃいけなかったりはしません。
 というかこれがもしゲームだったら、好んでプレイしようと思う人はまずいないでしょう。なんだよ2週間ワンセットのリセマラって。
 それなのに病気の治療だからこれはやらなきゃいけないわけです。現実ってマジ厳しいですね。

 セキゼキさん(仮名)もご多分に漏れず、初回から当たりを引くことはできなかった組でした。
 病院に行きたがらないセキゼキさんを説得するために、こちらとしては
「とにかく行けばいいから! 薬飲めばラクになれるから! ね! ね!」
 とかむちゃくちゃ言いまくっていたわけです。過酷なリセマラが存在することなんて伏せちゃってね。いや伏せて悪かったと思ってますよ? でもただでさえ病院に行きたくなくて仕方ない人に、こんな話をしたらもう病院拒否の姿勢を強めるだけでしょ!? そりゃ言えませんよ、言いたくても。
 そんでセキゼキさんは私の言うことを信じると決めたからこそ病院に行ったわけです。それなのに。
「やっぱり精神科はあてにならない!」
「薬を飲めばラクになるって言ったのに、全然ラクにならないぞ嘘つき!」
 とかまあ、そりゃ言いたくなるよねー、ということを言われましたねハイ。あれが辛くなかったといえば嘘になりますが、私よりもセキゼキさんのほうがずっと辛かっただろうと思います。
 セキゼキさんはそれでも比較的早く、それなりに合う薬が見つかりました。しんどいリセマラも一ヶ月程度で済んだんですから、かなり運が良かったのです。人によっては年単位で合う薬を求めてさまようことになりますからね……
 でもね。
 運が良くてもなお、なんとかなるまでの一ヶ月はものすごくしんどかったです。
 多様性、本当に素晴らしいし必要なものだとは思いますが、物事はなんでもいい面ばかりじゃないんだなって、実感させられたのでした。