『むしろウツなので結婚かと』第4話~石油王ならすべては解決
本日1月13日に『むしろウツなので結婚かと』の第4話が更新されました。
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セキゼキさんは、とにかく病院に行きたがりませんでした。
会社はこの時、かなり好意的に処理してくれていました。とはいえ、診断書もない状態で仕事を休み続けるのには限界があります。
今後休職するにしろ辞めるにしろ、とにかく病院に行く必要は絶対にあるんだというのが私の認識でした。
ところがセキゼキさんはそれに猛反発。
病院に行ってもいいことなど絶対にない。
ただ辛くて嫌な思いをするだけ。
それくらいなら病院に行かない。
会社が認めてくれないならこのままクビでいい。の一点張りでした
まあ、私が石油王か何かでしたら、セキゼキさんの要望を優先するのもありでした。
「労働など気が向いた時にすれば良い。そなたは好きなようにせよ」
などと鷹揚に片付けて、セキゼキさんが会社をクビになったら油田の一つもプレゼントすればいいからです。
ですが現実として私はただの一般庶民。それもやや貧しい方でしたので、そういうわけにもいかないのです。
お金、福利厚生、雇用の安定。そういうものを精いっぱい大事にしながら生きていきたいのですよ!
会社からは診断書を取得して、傷病手当金を申請するようすすめられていました。
傷病手当金の申請が通れば、今までの給料の三分の二ほどの金額を最長一年半受け取りながら休職ができます。
そんなお金、貰った方がいいに決まってるじゃありませんか。
というわけで私には、このままクビでいいというセキゼキさんの主張は到底受け入れられませんでした。
そもそもお金だの仕事のことがなかったとしても、病気なんだから治療の必要はあるわけですし。
どうすれば病院に行ってくれるのか、毎日頭を悩ませていました。
どんな本を見てもどのサイトを見ても、ウツの疑い濃厚な人間を病院に連れて行く方法は教えてくれません。
たとえば意識を奪って無理やり連行するとしたら、スタンガンで気絶させるのと鈍器で殴るのだとどちらのほうがオススメなのかとか、そういう具体的で実践的な知識が欲しい! と私は思っていました。
気絶した180cm超の大男の運搬方法も教えてもらえないので、結局どちらの方法も諦めたのですが。
あれから何年も経ちますが未だに、あのときの自分がどうするのが正解だったのかがわかりません。
自分がうまくやれていないのは分かっていたし、反省点は思い浮かぶのですが、じゃあどうすれば良かったのかというのは思いつかないのです。
考えているとやっぱりスタンガンで気絶させるのが手っ取り早かったのでは、という結論が出そうになったりします。まあその場合、かなりの確率で私に前科がついてしまいますが……
これはなかなか絶望的な話です。もしあなたが今、身近な誰かを病院に連れて行けなくて困っているのだとしたら、こんなことを聞かされてもどうしようもないですものね。ただ辛くなってしまうだけ。
しかしながらたった一つ、これだけはやっておいたほうがいいと、おすすめできることがあります。
しっかり食べて、しっかり寝ること。できれば毎日、何かを楽しんで笑える時間を持つこと。
健康で元気な自分で居続けるのです。難しいことだとは思いますが。
少なくとも、私には難しかったです。親しい人間がすぐ傍で眠れなくて食事もとれなくて笑顔なんて忘れて苦しんでいるときに、自分はしっかり食べて眠って笑っていようなんて、なんだかすごく気がとがめました。
ですが、それは必要なことだったのだと思います。そもそも寝ない食べない笑わないで私が献身的に尽くしても、別にセキゼキさんはよくなったりしませんからね。むしろ悪影響ですから。自分のせいで周りを苦しめていると感じてしまう。
一心同体、異体同心。仲良く寄り添って心を一つにするというのは、人類の憧れの一つですし、そういう思いが人を救うことはあると思います。
ですが親しい人間同士であっても心が分かたれていること、どれほど近くにいても二人が他人であるということも、時として人を救うのです。
親しい人が病気になったとしても、あなたは健康でいられたほうがいい。
病院に行きたがらない相手を説得するのは確かに容易ではありません。けれど弱った人間が健康で強固な人間を説得するのは、更に困難なことでしょう。
二人の主張が平行線を辿れば、最終的に音を上げるのは弱っている方だと、私は思います。
もちろんこれは、とても残酷なことです。
相手は必ず苦しみ、辛い思いをするでしょう。
ですがそれを嫌った優しさによって、適切な治療を受けずに病者が放置されることになるならば、それはただの害です。
いつか自分は必ずこの人を病院に連れて行くんだ。
だからそれがいつになってもいいように、自分自身の状態をできるだけ良く保とう。
そう決意することが、まずは第一歩なのではないでしょうか。