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だらだら書きますので、だらだら読んでもらえるとありがたく。

消えるひと

「この間、すごく怖いことがあったんだよ」
とセキゼキさん(仮名)が話し始めました。
「新宿で、気配がめちゃめちゃに異常なおばあさんがいてさ、腕には注射の痕がびっしり並んでいて、紫のワンピース着てて……そのひとのすぐ近くを通ったら、そのおばあさんがこっちを見たんだよ! おれの動きを目で追って、腕を掴まれそうになったの!! 怖かったよう」
「うっ。確かにそれは怖い。……でもさあ、なんでそんなひとのすぐ近くを通ったの? 遠巻きにして近寄らないようにするのが一般的なやり方だと思うんだけど。だからこそ、珍しく近くを通った君の動きを、おばあさんは目で追ったわけでしょ」
「何言ってんだよ! おばあさんを見かけたからって、そこで急にコースを変えて、遠回りにするの? そんなこと出来るわけないだろ!」
セキゼキさんが驚いたような顔でそう言い、その瞬間、私はおのれを恥じました。彼の言う通りです。異様な風体のおばあさんを見かけたから遠回りするというのは、確かに偏見に満ちた考えです。
「大体、街で見かけるああいうひとって、大抵の場合、消えるひとじゃないか! 消えるひとに対して遠回りなんかしたら、余計危ないじゃないか」
「はい? 消えるひとってナニ?」
「街角で、ふと気になる方向を確認すると、異様な気配に充ち満ちていてすごく怖くて、そのひとの近くを通ると、一瞬気配が強まったあとに消える。そういうひとが、たまーにいるじゃないか。遠回りして避けようとすると、そのひとの存在に気付いたことがばれて、追い掛けてくるタイプの。ああいうひとって、わざと気付かないふりしながら近くを通ったほうが安全だから、今回もそうかなと思ったんだけどさ…」
「ええっ。消えるひとって、つまり、それ、幽霊ってことか! 君はいわゆる『見えるひと』なのか」
「ばっ、なっ、ちっげーよ、ナニ言ってんだよ、変なコト言うなよ、幽霊なんていないよ、非科学的なこと言うなよシロイのバカ! ゆゆゆ、幽霊なんて、幽霊なんて、怖いじゃないか、おれが今まで会ったことのある消えるひとたちが全員幽霊だったのかもしれないと思うと、怖ろしいじゃないか、眠れないじゃないか、街を出歩くのが嫌になるじゃないかあっ!! あれは! ただの! 消えるひとなんだよ!!! そして! おれは! 見えるひとなんかじゃないんだよコンチクショウ!!!!」
私はそのとき、一体セキゼキさんの発言のどこから突っ込んでいいのかさっぱりわからなくなってしまったのですが、彼がなんだかとても必死であることだけはよくわかりましたので、とりあえず
「そうかあ」
とだけ相槌を打っておきました。