wHite_caKe

だらだら書きますので、だらだら読んでもらえるとありがたく。

六日目 本断食四日目

どうしよう。
わたしはたぶん、あなたのことが好きです。
たぶんじゃないかもしれないけれど、でもたぶん。それが確定してしまったことだと、認めるのが怖いから。
一日中、馬鹿みたいに、あなたのことを考えています。
今すぐここに来て欲しい、と思ってしまう。そんなこと、あり得ないのに。
とうとうあなたの夢を見てしまったとき、とても怖くなりました。
自分がどれほどあなたに会いたがっているのか、わかってしまったから。
どうしよう。
あなたはわたしのことを、どう思っていますか? わたしがあなたを好きだと思うことを、許してくれますか? あなたに会いたい、今すぐ会いたいと思うことを。
ソースカツ丼さん……っ!


というわけで、水だけ生活四日目ともなると、目覚めと同時に、頭の中から変なポエムが沸いてきました。
せっかくのポエム、書き留めておかなきゃ、とPCを立ち上げて、ぱこぱこ打ち込んでいたら、静座に出席するのを忘れてしまいました。そこまでして記録しておくべきポエムだったかなあ、これ。
それにしても、どうしてこんなにソースカツ丼が食べたいかなあ。
どうも今の私はこってり、どっしりしていて、味に甘みと塩気の双方があり、野菜や魚じゃなくなにより肉が食べたい、という気持ちでいるようですね。うわあ、なんて女子力の低い食欲だろう……嘘でもいいから、「フルーツヨーグルトが食べたいです」とか、乙女っぽいこと言っておけばいいのに。
回復食が始まっても、絶対にその中にソースカツ丼がメニューとして組み込まれることはないでしょうね。というか、退所してからもしばらくはそんな重い物、食べるべきじゃなさそうです。ああ、私の恋は、実らない……!(恋?)


ポエムの打ち込みが終わったところで、洗濯に。今日もお外はいい天気です。
洗濯機の脇でホラー・アンソロジー『さむけ』を読んでると、昨日静座の時間にちょこっとお話しした女性が出てきました。
「おはようございます」
「おはようございます……今日の静座、私ひとりでしたよ」
「えっ」
膨れあがる罪悪感。
「ご、ごめんなさい。私今朝、とても眠くて、つい」
嘘をついたことで更に罪悪感はヒートアップ。でも変ポエムを打ち込んでいたからさぼりましたなんて言えないし!
「あ、いいんですよー別に。自由参加なんだし」
と優しく私を許してくれる彼女の笑顔を見ながら、夕方の静座には参加するぞ、と心に誓いました。


部屋に戻り、『さむけ』を読みながら、首をひねる。
というのは、冒頭に収録されている高橋克彦先生の『さむけ』と京極夏彦先生の『厭な子供』は明らかに読んだ覚えのある作品なのです。
「あれー、一度読んだ本なのに忘れて読み始めちゃったのかなあ」
と思ったのですが、それ以外の作品はすべて読んだ覚えがないのです。
「……この本を読んだわけじゃないのか。他のアンソロジーにあの二編が収録されていた?」
と思うのですが、なんとなく納得いかない。


『さむけ』を読み終わったら、今度は部屋の掃除。
私は入所以来ずっと、「部屋の掃除はどういうシステムになっているんだろう?」と疑問を抱いていたのですが、昨日「あ、廊下のあちこちに掃除機が置いてある! これを使って各自が自室を掃除するシステムなんだ」と気付いたのです。(遅すぎ)
部屋に掃除機をかけ終わると、眠くなってきたので、昼寝。
なんでこんなに眠いのかなあ、と今までは疑問に思っていたのですが、昨日散歩にでかけて身体が「歩きたくない!」と抗議してきたとき、眠気の正体が理解できた気がしました。
おそらく、身体は少しでも体力を守ろうと、「じっとしてろ。変に動くな」と私に訴えかけているのです。そして、そのためには「眠らせるのが一番確実だ」と判断しているんじゃないでしょうか。
わーお、すごい、これが人体の神秘か。と感嘆しながら眠りにつきます。


目覚め。
今日は中島らもさん尽くしの日と決めているので、ラスト対談集『なれずもの』、『特選明るい悩み相談室』を読むことに。
しかし、しばらくすると、「いかん、私が今、真に読みたいのは『華麗なる食卓』だ。カレーマンガを貪るように味わい尽くしたいのだ」ということに気付きましたので、急遽娯楽室に向かい、未読の5、6、7巻を借りてきました。
華麗なる食卓』を読んだりしたら自分がすごく辛くなるんじゃない、と思いましたが、むしろ逆で、たいへん楽しかった。というか、食べ物のことを考えた方が、楽しいみたい。
と思っていたらある方に、「胃のオナニー」という言葉を教えてもらいました。
『夜の霧』というアウシュビッツ収容所の実録物の本の中に、人々が食べたいものを言い合って、「胃のオナニー」をする、というシーンが出てくるそうです。
だから食べ物漫画が楽しいのか、と驚かされた私は、今度は娯楽室から『味いちもんめ』を借りることにしました。


しかし今日は、空腹よりもジャンプを読みたいという気持ちが急速に盛り上がって困りました。
これも全て昨夜妹が、「今週のデスノートの展開といったら」などという超思わせぶりメールを送ってきてくれたせいです。
私はここに入所してから、ひたすら本とマンガを読むだけで、テレビも一切見ず、新聞も読んでいない(どこにあるかわからない。たぶんない)状態なので、世間から完璧に切り離されています。たぶん、関東大震災が再び起こって東京が壊滅状態になっても、退所するまで気付かないんじゃないかしら。
妹のメールで私は、自分がどれほど世間から隔絶した場所にいるのか、あらためて気付いてしまったのです。
歩いてコンビニ探しに行こうかな……でも散歩中にそんなの見つからなかったし、なさそうだし、院長先生もないって言ってたしな……そもそもそんな体力ないし。あー、でも読めないとなると余計読みたいなあ。
それにしても自分の情報不足を自覚したイイトシの大人がまず読みたがるのがジャンプってどうなの。駄目じゃない? うん、駄目だね。(自問自答)


夕方、静座の時間。
参加者は私を含め二人だけでした。今朝ひとりぼっちだった女性に、私が加わったわけです。さみしすぎる。院長先生は私の顔を見るとにやっと笑って、
「朝も参加するようにな」
とおっしゃりました。「は、はい」と答える私。やましさがあります。
しかしながら少人数の効用というのもありまして、場はうち解けた雰囲気になり、静座が終わると自然と会話が交わされます。
もうひとりの静座参加者の女性は、とても感じがよさそうな方で、年もあまり離れていない気がするし、15日までいらっしゃるそうだから、しばらくはご一緒できるし、なんだか嬉しい。


娯楽室を去るとき、院長先生に声をかけられました。
「そーいえば、シロイさん、何日目?」
「本断食四日目です」
「おお、もう少しやん」
「ええ、半分越えました」
「身体は大丈夫そうやね。元気そうや」
「うーん、ここでこうやっている分には平気ですけど、昨日散歩の帰りに坂道のぼったら、辛かったですよ」
すると、院長先生は呆れたような顔をしました。
「そんなの当たり前やん。帰りに上ってどーすんの。そういうときは、まず先に上らんと。上って、疲れたら下りる。そうじゃないと、そらきついわ。下って疲れてから上ろうとしたら、そんなの帰れなくなるで」
がーん。言われてみればその通りだ。てか昨日の私はなんでそんな簡単なことに気付かなかったんだろう……
というわけで、明日は再び散歩にチャレンジすることに決めました。今度はまず上ります。
まーでも昨日の帰り道の疲れた感じも、良い体験、貴重な体験だったとは思うけどね!(負け惜しみ)


静座のあとは自室でごろごろ。今日の予定はもうありません。
友達とメールのやりとりをしたり、水を飲んだり、本を読んだり。
刺激のない生活を送っているので、友のメールが本当に嬉しいっす。ありがとう友よ。
『特選 明るい悩み相談室』は読了したし、『なれずもの』を読みながら眠りにつこうと思います。
おやすみなさい。
(七日目へ)