「断食中、もっとも辛いのは空腹よりも退屈」
という話は聞いていたのですが、確かに時間は余ります。というわけで、本を読んだ感想も、まめにまとめていこうかと思います。
入所後読了した一冊目は『殺人の教室』。
「宮部みゆき、乙一、奥田英朗ほかエンタメ達人10人の傑作だけを集めた必読の豪華アンソロジー」だそうです。
『鏡の家のアリス』と『犬 Dog』は既読でしたので、コストパフォーマンスはイマイチだったかも。
一番印象に残ったのは、緑川聖司先生の『見えない悪意』。この方の作品は初読です。
冒頭はいかにもな“日常の謎”系の雰囲気を漂わせ、主人公の女子大生はひとが好くて感傷的で本好きと、これまたいかにもなかんじ。私ははっきりと加納朋子先生(このアンソロジーにも参加なさっています)の『ななつのこ』を連想しました。*1
探偵役の若い男性のキャラクター造形も『ななつのこ』を思い出させるところがあります。
ああ、だからきっとこのお話も『ななつのこ』的な展開をするのね、と思っていたら、なんと。
ええーっ、そう来るか! というオチ。見事にしてやられました。短編がこういう味わいで終わるのは、けっこう好きです。
ただ、気になるのはこの作品、“日常の謎”系の作品を読んでいない方はどう感じるのかな、という点です。オチで味わう驚きの何割かは、「この展開、“日常の謎”系ぽくない!」というところから来ていると思うので。
また、純粋に“日常の謎”系の作品が好きな方が、この作品をどう受け取るのかも、興味があります。私の印象では“日常の謎”系の作品というのは、ミステリの中では柔らかく甘い味わいを持っていることが多いような気がするのですが、そのような作品を好む方々からすると、この『見えない悪意』はどう見えるのかな、というのが気になるのです。
他に気に入った作品は、伊坂幸太郎先生の『チルドレン』。
オチも読めませんでしたし、登場人物の造形も魅力的で、作品全体に漂う洒落た味わいは、この作者ならではのものだと思います。
奥田英朗先生の『いてもたっても』は、話がどこに向かうのかさっぱり見当がつかずにいるところで「えっ、そうおさめるの?」という驚きが味わえました。しかも、読んでる最中には想像できなかったほどに、意外とさわやかな読後感でした。
ところで、私はそれほど本格的なミステリ読みではありませんので、“日常の謎”系の作品というと、加納朋子先生の諸作品と、北村薫先生の「私」シリーズ、覆面作家シリーズ、それに坂木司先生のデビュー作である『青空の卵』くらいしか思い浮かばないのですが、他に面白い作品があったら、是非教えてください。
今のところ、自分の知っている“日常の謎”系では、北村薫先生の「私」シリーズが一番好きです。北村先生の文章には、すっきりとした品と美しさが備わっているように感じます。
北村作品に出てくるしなやかで凛とした女性たちは、私にとって理想に近いです。ああいうふうになりたいけど、得てして理想と現実はかけはれているものだということも、私は知っています。
かけはなれているから、憧れるんだよなあ。