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だらだら書きますので、だらだら読んでもらえるとありがたく。

三日目 本断食突入

引き続き断食記録です。長文な上に、「あっ」というような事件性もないので、読んでもつまらんでしょう。断食生活に興味のない方は、引き返すが吉。
昨夜は早めに22時頃、床に入りました。
といっても、施設全体の消灯が21時ですので、あまり早めには感じられないのですが。
あれだけ昼寝したのに、夜も順調に眠れる自分に驚きです。なんでこんなに眠れるんだろう。
午前一時頃、なぜか一度だけ目が覚めました。起きあがって窓から夜景を眺め、美しさに感嘆しましたが、そのとき自分がかなり空腹であることに気付きました。もしかして目が覚めたのはこのせいか?


朝。琴曲「春の海」での目覚め。
起きた瞬間に、自分の空腹に気付かされました。私が眠っている間も胃腸は休みなく活動を続けていたのでしょうか。なんとなく頭の中に、空っぽの工場で、ベルトコンベアだけが回り、その周りで工員たちが苛々しながら
「おーい、流れてこないぞ、どうなってるんだコレは」
と怒鳴りあっている光景が浮かびました。ごめんね、君たちは知らないと思うけど六日間は流れてこないんだよ、実は。


ゆっくり動くこと。眩暈がしたら、すぐその場にしゃがみこむこと。決して無理はしないこと。
あちこちに貼られた注意書きの掲示が、だんだん気になってきました。今のところ空腹以外はまったく辛さがないけれど、断食が続けば体力は当然落ちるんだろうなあ、という当たり前のことを実感し始めたのです。ちょっと不安。


食事がないと一日の区切りが生まれないような気がするので、今朝はちゃんと静座に参加することにします。
広間に集まる他の参加者の方々の顔ぶれを見ますと、男性がかなり多い。入所説明の時、院長先生は「ほとんど皆、ダイエット目的の入所ですよ」と言っていたので、勝手に若い女性が多いと思いこんでいたのですが、男性も悩んでいるのですね。
そして、参加者の年齢が意外とみな高め。二十代、三十代の方はほとんどいないように見えます。
いちばん意外だったのは、参加者の中で本当に太っているひとが一人もいないことです(自分は考えに入れていません)。「なんでその体型で断食?」という人ばかり。特に高齢の参加者の中には、お年寄り特有の細くて華奢な体つきの方がいらっしゃって、他人事ながら「その年、その体型でちょっぴり無茶じゃありませんか」と言いたくなります。
どうしてこういうひとが、痩せたいのかなあ。


本断食中は下手に動くと衰弱しそうな気がするので、とにかく部屋でごろごろすることにしました。
「娯楽室に書籍、ゲーム、ビデオなどがあります」
とのことなので、娯楽室をのぞくと、確かにマンガや小説がたくさん置いてあります。
川口まどかの『死と彼女とぼく』の文庫版1、2、3巻と、『新・死と彼女とぼく』の単行本一巻を見つけたので読み、ボロ泣き。
『やさしい悪魔』と『死と彼女とぼく』はとても好きな作品なので、古本を中心に少しずつ集めていたのですが、今回彼氏のアパートを出るための荷物の大量処分で、全部手放したんだよな……などと思うと更に泣ける。
どうしよう。もう一回集めようかな。マンガ喫茶で読めるようなメジャー作品なら、手放しても惜しくないんだけど、そうじゃないからな……。でも一度手放したものをまた買うなんて、あまりにも馬鹿っぽい。


『死と彼女とぼく』の後は、『雨柳堂夢咄』の文庫版の1巻と2巻を読むことに。
「『雨柳堂夢咄』もいいなあ……絵も話も世界も綺麗すぎる……集めたいなあ」
しかしとにかく職を見つけるまでは緊縮財政ですからね! 仕事が見つかったらそういうことを考えることにしよう。


16時過ぎに、「お風呂どうぞ」の声がかかりました。
本断食中は入れないんじゃなかったの、と思いつつも、入れるほうがいいので、喜び勇んで浴室に向かいます。
「湯舟がカラだ! 強制シャワーってことだ」
まあいいや、どうせ入浴時間は短めにって指導されてるから構いませんよ。こっちだって体調が悪くなるのは嫌ですしー、などと思いながらシャワーをひねってお湯を頭に……ってああっ!?
「だだだ、駄目じゃないか、洗髪禁止なのに」
しかし濡らした髪はもう戻りませんので、そのまま頭を洗うことにしました。
禁断の洗髪がばれないように、風呂上がり、バスタオルで丁寧に丁寧に水気をとって、少しでも乾いた髪に近づけようとしたのですが……
「無理ムリ、諦めよ」
代わり映えのしない鏡の中の自分に見切りをつけて、職員の方に見られないよう、そそくさと自室に戻りました。
「メシッ」
すると、足下に異常な気配。
「あああああああっ、ノオオオオオオオオオ」
なんとそこにはノートPCが。今使ってるコレですよ。
部屋を出るときにもしものために隠しておいたほうがいいよね、と思って布団の下にPCを隠しておいたことを、私自身が綺麗に忘れ去っていました。まあそれで、踏んでしまったという。
慌てて電源オン。
「いやあああっ、ばかばかアタシの馬鹿っ」
液晶が、液晶が……二カ所ほど、おかしくなってる。
脳裏を以前聞いた誰かの言葉がよぎります。
「ノートPCは液晶がいかれたらもう駄目なんだ。寿命ってことなんだよ。液晶は直せないからな」
ねえ本当? それ本当? このPC、去年の年末に買ったまだ新しいやつなんだけど!
どうしよう! どうしよう! どうしよう!


しばらくの間、悔恨の情に悩まされて部屋の中を転げ回っていた私ですが(断食中に何やってんだ)、さすがに十分ほど経つと気持ちが落ち着いて参りました。
「……過ぎたことを思い悩んでも仕方ないって。一応電気屋に持っていってみればいいじゃないか……」
「駄目なら駄目で、使い続けるまでだよ。液晶以外はなんともないんだから。快適なんだから」(まあ快適は嘘だな)
「たぶん慣れれば平気だって」
「……駄目かな。慣れるなんて出来そうにないかな。でも我慢するしかないし」
「こういうときは、フィクションの世界に逃避しよう」
というわけで再び娯楽室に向かい、今度は安野モヨコ先生の『美人画報』と舞城王太郎先生の『好き好き大好き超愛してる』を読むことにしました。


途中、院長先生と会話。
私は断食療養院の院長なんて、きっと白髪のおじいさんに違いない、と思っていたのに、三十代後半から四十代くらいに見える予想より若くてかっこいいひとだったので、ちょっと驚きを感じていたのですが……
「へー、妹さん、茨木に住んでるの。おれも前、仕事で行ったことあるなあ。昔はサラリーマンしてたから。といってもまあ、十六年くらい前の話だけどな。三十代の頃だから」
「えっ」
頭の中で暗算する私。
「それではもしかして、先生は四十代後半くらい……?」
「今年五十だよ」
「ええええええっ。じゃ、じゃあ、よく人に『お若く見えますね』とか言われませんか?」
「うん、そうやね、言われる」
もしかしてこれが断食療養院の健康的生活の効果かーっ。
院長先生、体型もいいかんじだもんなあ……お腹周りすっきりで、なおかつ全体はしっかりと力強いかんじ。
私も将来、このくらい若くてかっちょよく見える大人になりたいものです。


18時。夕方の静座です。
ここで初めて、体調の変化に気付きました。正座の体勢がいつもより若干辛く感じられるのです。もともと私は華道、茶道、日本舞踊、琴などの日本的なたしなみが全くない人間ですので、正座はかなり苦手なほうなのですが、それでも今までの静座の時間は15分程度と短いこともあって、平気だったのです。
ですが今回は、足がしびれ始めるのが少し早いような……さいわい、限界に達する前に静座は終わりましたが。


その後、娯楽室の中に『華麗なる食卓*1が置いてあることに気付いた私は、あえて自分をいじめるために、一巻だけ読んでみることにしました。


……やっぱりカレー最高。カレー食べたい。
ここ数ヶ月の私は、かつてなかったほどのカレー意欲にそそられておりまして、ネットでもよく「おいしいカレー 作り方」で検索をかけたりしています。おかげで現在、カレーに対する食欲が、すさまじい勢いで膨れあがっています。
ココを出たら、絶対にカレー作る。鍋一杯に作ってやる。一人では食べきれないだけの量ができあがっても構うもんかー。なんなら近所に配ってやる!


それにしても、断食療養所に『華麗なる食卓』が置いてあるというのは、一体どういうことなんでしょう。


自室に戻って、再び読書。『美人画報』は読了です。これから『好き好き大好き超愛してる』を読み始めます。


と思っていたのですが、今度は娯楽室で『有閑倶楽部』の三巻を見つけてしまい、そっちを先に読むことにしました。さらに、『死と彼女とぼく』の4、5巻を見つけたのでそれも読むことに。電気の紐が長くなっていて布団に横たわったまま消せるようになっているので、寝ころび読書で眠くなったらお休みなさいです。
明日は『好き好き大好き超愛してる』を読むぞ。
(四日目へ)

*1:カレーのみで構成されている料理マンガ。カレーレシピつき。くいしんぼうにとってレシピというのはいっそう食欲をあおる存在なのですが……