今年3月に「今更だなあ」と思いつつ「Fate/Grand Order」を始めたところすっかりはまってしまい、先日ついに人理を修復いたしました。
終章のストーリーに深く感動してしまい興奮さめやりませんので、「Fate/hollow ataraxia」の紹介をいたします。
「え、なんで? そこはクリアしたてのFGOの感想とかになるんじゃなくて?」
と思われる方もいらっしゃるかと思いますけれども、全くそのとおりですなあと私も思うのですけれども、しかしながら山ほどあるFateシリーズの中でも私が一番好きなのは「Fate/hollow ataraxia」なので、仕方ないのです。
そしてまた、FGOの終章で得た深い感動は、「Fate/hollow ataraxia」の感動になんだかひどく似ている気がしましたので、ここはぜひFGO大好きだけどhollow ataraxia 未プレイの方に
「だったら! やっとく! べきですよ!」
と声を大にして伝えておきたいと、余計な使命感にとらわれたわけです。
というわけで今回のエントリは、オタクが自分の好きな作品について語るときの声がちょっと甲高くなって早口になるあの感じで書いていきます。
「ところでそのhollow ataraxia ってなによ? stay night は知っているけど」
という方が多いかと思いますのでそこから説明いたします。
「Fate/stay night」は本編にして原点でして、Fateシリーズをとりあえず知りたいという方は、stay night をやればいいわけです。それ以外の山ほどあるコンテンツは、そこから派生した外伝だったり並行世界だったりするわけなので、stay night がお気に召してもっと他にもFateが欲しいぞーとなったら手をだせばよろしい。
そしてその「もっとFate欲しいぞー」となったとき、じゃあ次に選ぶべきFateって何よとなったら、そこはあなたhollow ataraxia をやるべきなのですよ、というのが私の主張です。
hollow ataraxia はstay night の続編にしてファンディスクにあたる作品です。
と言ったらこの間友人に「ファンディスクってなに?」と訊かれて、オタクとそうじゃない人間との間の深い溝の存在を痛感したわけですが、皆様はファンディスクとは何かご存知ですよね? ご存知ないならググってください。
stay night プレイ済の方ならわかってもらえるかと思いますけれども、あれは聖杯をめぐって行われる「戦争」の話ですので、登場人物はばんばん死にます。ルートによって生存者の顔ぶれは変わりますけれども、とにかく魅力的なキャラクターが景気良く散っていくお話です。
だからなのでしょうか。どのルートの後日談という設定にしても人気キャラが大勢脱落済みとなり、ファンへのサービス精神に欠けてしまうということなのか、本編の半年後という設定のhollow ataraxia の世界ではほとんどのキャラクターが生存した状態で物語が幕を開けます。
なにそれおかしいじゃんどういうことよ、とここでまず初プレイ時の私は思ったわけですが、シナリオの中でも主人公あたりが同じ疑問を抱いて事態の解明に乗り出していくのです。
本編であるstay night がぴりぴりと緊迫した死と生の間をぎりぎり綱渡りしていくような話であるのに対し、hollow ataraxia はひたすら穏やかで明るくコミカルな雰囲気で話が進みます。
私はこの本編との落差に最初は戸惑ったのですが、この穏やかで明るい物語が本当に楽しいので、シリアスに死んでいったはずのキャラクターが見せる日常の顔があまりにも魅力的なので、いつしかギャップなど気にせずニコニコとえびす顔でhollow ataraxia 世界を満喫することとなったのでした。
と言いつつもそれはあくまで「昼」のお話で、舞台が「夜」となりますと一転します。
なぜいないはずの人々がいるのか?
そしてなぜ物語は同じ四日間を何度も繰り返し、その四日間に起こり得た可能性をすべて塗りつぶすようにして進んでいくのか?
という謎が不穏な空気を孕みながら迫ってくるのです。
さて、このhollow ataraxia の魅力を語るにあたってですね、昼と夜、コメディとシリアスなパートが双方それぞれの魅力に溢れて面白いですとか、キャラクターの新たな側面が見られるのが楽しく嬉しいですとか、伏線とその回収が見事とか、誉め言葉はいくらでも出てきます。
出てきますけれども、私がこのゲームで衝撃を受けたのはそこではないんです。
あのですね。
ゲームに限らず、「物語」というものは、読み手の感情移入を促すべく、いろいろ仕掛けられているものですけれども。
特にゲームにおいてはプレイヤーが主人公を操作することになりますから、そこの一体感を生むための工夫がキモになったりしますよね。
有名どころですと、ドラクエの主人公がしゃべらないってのがそうだったりしますよね。
あとは、主人公が記憶喪失とか、突然わけのわからない世界に飛ばされてとか、そういう設定も感情移入に効果的ですよね。プレイヤーと主人公、双方が世界や設定に無知だからこそ、共に学習していくことで一体感が生まれる。
私もこれまで、いろんなゲームの工夫に助けられて、たくさんの主人公に感情移入してきました。
hollow ataraxia にも、同じような仕掛けがあります。主人公とプレイヤーの一体感を生む仕掛けが。
けれどこの仕掛けは、私にとっては生まれて初めての衝撃を伴うものでした。
ネタバレを避けるためなんだか曖昧な語り口になってしまって申し訳ないんですけれども。
私が今までしてきた感情移入というのは、自分が主人公のような気持ちになって、主人公を動かすというものでした。
それが、hollow ataraxia では逆なのです。
冒頭からずっと私は、ゲームをどっぷり楽しみつつもほどほどの感情移入をしていました。
自分と同一視、一体感を覚えるほどではなく、親しい友人ほどの距離感で主人公の行動を眺めていたのです。
ところが物語がかなり進行したあるシーンで、突然その前提がひっくり返されたのです。
殺伐とした本編とは違う、平穏で明るくてちょっと退屈な日常シーンを私は「もっと見たい」と思いながらプレイを続けていました。
けれどそのシーンで私よりもずっとずっと強く、その願いをいだいていた人がいることを知ったのです。
穏やかな何気ない些事を、楽しくて明るいやりとりを、ひりつくように欲していた人がいて、その願いこそがこの物語を生み出し、終わらない四日間を回していたのだと知らされたのです。
本当に、あのときの気持ちをどう言えばいいのか。
私はあの瞬間、
「ああ、この人はプレイヤーである私よりもずっと『プレイヤー』だ」
と思ったのです。
私はそれまで、物語を進めるも止めるも自分次第であると、考えていました。当然です。私がプレイヤーなのですから。
だけどそれは違うんだ、と私は愕然としました。
逆だ。
誰よりも苛烈にhollow ataraxia という物語を欲した「この人」が、私を操作してこのゲームをプレイしているんじゃないかと、そんな風に感じたのです。
繰り返される終わらない四日間は、「この人」にとって唯一の救済であり、その救済のために私が動かされているんだと。
そのことに気づいた時、私はこのゲームを「終わらせたくない」と思いました。
この先何度同じことを繰り返すとしても、そうすることで全てが退屈に変わり輝きがうしなわれることになるとしても。
それでもこのゲームを終わらせたくない。「この人」は救済されるべきだ。誰よりもそれを求める権利がある。私よりもずっと、「この人」の思いこそが優先されるべきだ、と。
けれど私がそう思い始めてから物語は、どんどん終盤へと向かっていくのです。
救われ、許され、認められるべき「その人」は、それでも他者のために物語を終わらせようと動き始めるのです。
hollow ataraxia をプレイしていた最後の二十分間ほど、私はずっと泣いていました。
鼻をすすり、ぼろぼろ涙を流し、ティッシュとゴミ箱を抱え込むようにしたみっともない姿で、手を動かし続けました。
終わらせたくないと、私は思っているけれども。
「この人」は終わらせるべきだと、考えたのだ。
ならば終わらせるしかない、「この人」こそがプレイヤーなのだから。
たとえそれが「この人」にとって痛みと喪失を伴う、耐え難い出来事であるとしても。そのような思いをしてほしくないと、私が願っているとしても。
大好きなゲームをプレイして、終わるのが悲しくて、クリアしたあとの達成感を味わいながらもさみしい思いを味わってという経験は、それなりにしています。
主人公と自分を重ね合わせて物語世界に引き込まれたこともあります。
けれど、あんな気持ちになったゲームは「Fate/hollow ataraxia」だけです。
今でも「Fate/hollow ataraxia」のことを思い出すと、胸の奥がかすかに痛みます。
救済されるべきだと感じた、本当はもっと与えられるべきだった「あの人」が、「これでもういい」と決意した尊さ。
物語が大団円となったときの晴れやかな喜びの中に満ちていた悲しさ。
というわけで本当に皆様には、「Fate/hollow ataraxia」をプレイしていただきたいと思うのです。
むしろ「Fate/hollow ataraxia」を楽しむために本編である「Fate/stay night」を押さえてほしいとすら思うのです。
そんな「Fate/hollow ataraxia」はPC版発売が2005年となんと10年以上前のゲームでして、しかもWindows Vista以降のOSですとパッチをダウンロードしないとプレイできないという状態が長らく続いておりましたので、
「名作なんだけどこの状況ではにものすごく薦めづらい……」
と思って全然人に紹介せずにいたわけなんですが、聞きましたか奥様、2014年にPS Vita版が発売になったんですわよ!
もうこれでお気軽に楽しめるようになったわけですわ!
PC版と違って18禁シーンがなくなってしまっているみたいですけれども、「Fate/stay night」の頃からエロシーンはなくても問題ないストーリーですから、もうそれでいいんじゃないですかね、なんかフルボイスになってるっていうし。
FGOからFate始めた方とか、アニメ版一通り押さえてstay night は知っているけれどhollow ataraxia 知らない方、ぜひぜひ「Fate/hollow ataraxia」を騙されたと思ってやってみてほしいんですよお願いしますよ。