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だらだら書きますので、だらだら読んでもらえるとありがたく。

食人賞『皮膚は柔らかい』*1

突然気づいてしまったんだけど、どう考えても人類ってのは食用に適している。
大体において人類にはまず毛皮がない、それがおかしい。毛皮ってのは便利なものだ、だからこそほとんどの哺乳類は毛皮に覆われている。皮膚も保護できる、体温も保てる、そんな便利で重要なものを進化の過程で捨て去るなんてそんなおかしな話があるだろうか。
おまけに人類、弱すぎ。爪も牙も一応生えているっていうそれだけで、武器としては頼りにならなすぎ。腕力もたいしたことねえ。ちょっとはネコとか見習うべき。だから人類は体の大きさの割には戦闘力が異常に低い。熊とか相手にすると瞬殺される。せめてネコ並みの爪と牙があれば、もうちょっといい勝負できるはずなのに。
あと、足も遅い。二足歩行だからしょうがない気もするけど、ためしに四つん這いになってみると更に遅い。どうなってんだ。
その代わり手が使えるとか言われても、実はたいしたことない。猛獣に追いかけられた時、サルなら確かに手を使って木に登って逃げられるけど、大抵の人類はそれができない。どんなに編み物とか料理とかプラモデル製作が上手にこなせる手でも、そういうときにはぜんぜん役に立たない。人類の木登り力、低すぎ。
皮膚がむき出しだから簡単に傷を負わせることができて、皮膚の下の欠陥が透けて見えるから致命的な攻撃ポイントがどこだか丸わかりで、おまけにちょう弱くて足も遅くて高いところに木登りもできないから襲われると無力に殺されるしかない生き物が人類。
毛皮がないおかげで顔色の良し悪しが丸わかりだから、おいしい肉とそうじゃない肉の区別がつきやすいし。
そのくせ繁殖力は旺盛でどんどん増えるから、かなりの数を捕食しても絶滅なんてしそうにない。安心して食べ放題。
これはもう間違いない。人類=食用。むしろ食べないほうがおかしい。人類ってのは誰かに食べられるためにわざとそういう風に品種改良されてるんだと思う。
てなわけで明日から街がおれの狩場。人類は皆おれの食料。
手始めに駅前のコンビニでバイトしている女子大生食ってくる。

人類弱す。ちょう弱す。ちょっと殴ったらすぐ死んだ。これなら近所の野良猫と戦うほうがしんどいわたぶん。
おれは女をいたぶって苦しめて拷問して殺すような変態とは違う、まっとうなカニバリストなんで、殺し方はなるべくシンプルにする。手間暇かけるべきなのはあくまで調理の段階だと思う。

やっぱり女子どもの肉はうまいね。若い男はいまいち、体脂肪が低いからさ。おれ脂身好きだし。かといってメタボリックシンドロームのおっさんは喫煙者が多いせいで食えたもんじゃないことが大半。老人は論外。
でもおれは男女差別はよくないと思う、ジェンダーフリー志向のまっとうなカニバリストなんで、明日は後輩の江川を食べる。元ヘビースモーカーのあいつが禁煙して三年。味がどの程度よくなったのか調べてみたいという思いもある。

今月は残業も休日出勤も大量にこなして、ほんとにおれはがんばった。そろそろ、駅でよく見かけるあの子を食べることにしよっかなー。おれは働き者のまっとうなカニバリストなんだし、たまには美人を食べて自分をねぎらってもいいと思うんだ。


彼女はそこまで読んだところでぱたんとノートを閉じ、おれの顔を覗き込んだ。
「ねえ、『駅でよく見かけるあの子』ってわたしのこと?」
おれがうなずくと、彼女は嬉しそうにうふふっと笑った。
「美人って書いてくれてありがとう。わたし、君の文章好き。小説家志望なんだっけ? 着眼点もいいと思うよ……ただね」
彼女はそこで首を傾げた。
「人類が食用って、そこまではいいんだけど、その後がね。だって君だって、しょせん人類じゃん。人類を食用に改良した存在がいるとしたら、当然それは人類以外の種のはずでしょ? そのへん、君は勘違いしてるよ。人類が食用だってことに気づいたなら、自分が食べることじゃなくて、自分が食べられることを考えなきゃ。誰が自分を食べにくるのかどうすれば身を守れるのか食われるときは痛いのか苦しみは長引くのか噛まれるのってはどんなことなのか考えなきゃ、何よりそいつらがどんな擬態を使うのか、若くてきれいでか弱い女に化ければいくらでも男が寄ってくるのは当たり前なんだということに気づかなきゃいけなかったと思うよ残念ながら」
話し続ける彼女の顔は真ん中から縦に二つに割れてその中にはびっしりと白い牙が並び、その牙は人類の歯とは段違いに鋭くて、そのまま彼女の大きな赤い口は広がり続けて、手足を縛られ身動きできない状態のおれの頭の上に覆いかぶさってきてそこで、