かつての同僚ヤヤミさん(仮名)から電話を貰ったときの話です。
「シロイさん、お久しぶり。今時間大丈夫? ちょっと相談したいことがあって」
ヤヤミさんは私より三つほど年下の可愛らしい女性で、私にわりと懐いていくれていたんですけれども、彼女が出産のために退職した後は、なんとなく連絡が途絶えてしまっていました。
「時間は大丈夫だよ。どしたの? そういえば赤ちゃんはもう生まれたの?」
「赤ちゃんはね……流産しちゃったんだ」
「ええっ」
私は思わず息をのみました。そうか、相談したい事って、そういうことだったのか……人生って悲しいなあ。
「それは……大変だったねえ」
「あ、うん、まあ、別にもうそれはいいんだけどね」
? それはいいってどういうこと? この反応は強がっているだけなのだろうか?
でも口調もやけに軽いというか、気にしていない風だしなあ……と私が考え込んでいると、ヤヤミさんは勢い込んだ口調で話し始めました。
「相談したいことは別にあってね。シロイさん、携帯電話使ってる? 実は私が最近勤め始めた会社が携帯電話用の画期的な充電器を開発していて、これは素晴らしい商品だから、私の知っているみんなに使って貰おうと思って電話をさせてもらったんだけど」
そのままヤヤミさんは、普通に二十分ほど営業トークをしました。
結局私はヤヤミさんの会社が開発している画期的な携帯電話用充電器とやらは、買わないで終わったんですけれども、そして私が充電器を買わないことがわかったら、ヤヤミさんは名残惜しそうな声を出しながらも速攻で電話を切ったんですけれども、
「流産なんて気にしてない」
「もう終わったことだから大丈夫」
などと百万回繰り返されるよりも、一度の営業トークのほうが、彼女がいかに見事に痛手から立ち直ったかを物語ってくれて私もよっぽど安心できたわけだから、これはこれでいいか、と思うことにしました。