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だらだら書きますので、だらだら読んでもらえるとありがたく。

トミー・ワンダーさんがもういない

このブログを見に来てくださっている方々は、きっとビタイチ知らないだろうなと思いながらお知らせしますが、オランダの偉大なマジシャン、トミー・ワンダー師が亡くなりました。

クロースアップマジックの分野でも、ステージアクトの分野でも、際だった功績を残したあのひとがもういないのです。
悲しい。
若すぎる。まだ五十代だったのに。
ニュースをきいたとき、私は外だったからこらえたけれど、本当に泣きそうでしたよ。


唯一の救いは、昨年の夏のSAM大会で、ゲストとしていらしていたトミー・ワンダー師の演技を、生でみることができたことです。
あの有名なカップ&ボールも、時計と封筒を使ったアクトも、ステージの演技も、見ることができました。
私はたくさん拍手をしました。だって、それはとても素晴らしい演技だったから。見ている間、楽しくて嬉しくて仕方なかったから。
トミー・ワンダー師の演技を、もう一度みたいと願いました。機会があればぜひもう一度、同じ演技を、そしてもっと違う演技も見たいと。
違いますね、一度じゃない。何度でも見たかった。何十回でも見たかった。何百回でも。
ビデオのある時代に生まれたことは幸いです。
生の演技を見ることはもうできない、マジックは何より生で見るのが一番ですが、それでも映像で見ることが出来るだけでも、私は幸せなのでしょう。
ああでも、やっぱりそれじゃ足りないのだけど。全然足りない。もう二度とトミー・ワンダー師の演技を見ることが出来ないなんて、世界はそのぶん、空虚になりました。


私自身はトミー・ワンダー師との親交がありませんが、私の周囲にはトミー師と親しく話をしたことのある人間が何人かいました。
そういった人間からきいた、トミー師の人生哲学の話を、私は忘れないでしょう。
「私はどれほど偉大なマジシャンであっても、そのひとのようになりたいとは思わない。そのひとと同じくらい良いマジシャンになりたいと思う。
私がなりたいのは、他人ではなく、今の自分よりも優れたよりよい自分、Best Tommyになりたいんだ」*1


何かの折りにしばしば、トミー師のその言葉が下りてきて、私の目を覚まさせてくれます。


誰かと比べるのではなく、自分を自分と比べろ。
過去の自分よりも良い自分を目指し、Best Myselfを目指せ。
他人の模倣のために人生を費やすな。


そうだ、私はシロイ・ケイキとして、まだベストじゃない。だから頑張りたいし、頑張ろう。自分であることを止めないようにしよう。
そう思うことで、何度救われたことか。


あのとき、トミー師の演技を見せていただいたとき、拍手をしてよかった。
手のひらが痛くなるくらい、腕がだるくなるくらい、一生懸命拍手をして、本当によかった。
私はもう全然トミー師には及びもしない、練習嫌いのへっぽこアマチュアマジシャンで、自分が一応マジシャンとしてカテゴライズされるのが恥ずかしいくらいの人間ですが、それでも自分の経験から、観客がくれる拍手と笑顔と賞賛の言葉が、どれほど演技者を元気づけ、喜ばせてくれるのかを知っています。
拍手が自分を生かせてくれるのだと思える、あの瞬間。
あのときの観客が送ったたくさんの拍手が、その中に含まれていた自分の拍手が、少しでもトミー・ワンダー師を喜ばせたかもしれないと思うと、気持ちがほんの少し慰められます。


せめてこれからも、私は一生懸命拍手をします。
幸福を与えてくれるひとたちに会えたとき、拍手だけでも、懸命に返したいと思います。


Best Myselfを目指します。私は弱い人間だから、きちんとそれが出来る自信はないけれど、それでも投げ出さないように努めたく思います。


多くのものを、大勢の人に惜しみなく与えた、偉大なるマジシャン。
その演技で世界を興味深く、美しく彩った天才。


ありがとうございました。
本当にありがとうございました。
生きているうちに、直接伝えたかった言葉です。


トミー・ワンダー師が生まれてきてくれたことに、生きてくれたことに、感謝致します。
惜しむらくはもう少し、いえもっとたくさん生きていて欲しかったけれど、そんなことは何よりもご本人が思っているのでしょうね。
今まで本当にありがとうございました。


謹んで哀悼の意を表します。

*1:この言葉について詳しく知りたい方は、ぜひこちらをご覧ください。トミー師と親交のあった友人のサイトです。