人間何がやばいって、一人でいるときがやばいですよ。誰の目も気にせずに済む解き放たれた時間がね、その時間こそがね! 私の理性を決壊させて、とんでもないことをやらせるのですねああもう。
そして身近な一人時間といったら、それはもうトイレと入浴で決まりなんですけど、特にバスタイムというのは大変なことが起こりかねませんぞ殿。
まあ要するに、私は入浴しながら一人遊びに興じがちなアホな人間だってことなんですけど。
別にいいじゃん、風呂の時間にひとりで何をしたってさあと思いながらも、風呂でこんなことしてるアホが世界でたった一人私だけだったらどうしよう、などという恐怖にとらわれがちな今日この頃ですが、皆様はいかがお過ごしでしょう? というか、皆様も一人遊びしない? 入浴時の一人遊びを世界に広めて、私を孤独から救ってくれない?
というわけで今日は、これが流行るといいなあ、流行ってくれないかなあという願いをこめて、私の好きな入浴時の一人遊びを紹介いたします。
風呂読書
言わずとしれた風呂場遊びの定番でございますね、これは。
バスタブにぬるめのお湯を張り、面白い本を持ち込んで、ゆったりと読む。リラックスできる贅沢な時間の過ごし方です。恥ずかしさも薄い。というかほとんどない。
明日は休日でいくらでも寝坊できる、という夜に、買ったばかりの面白いミステリと冷えた飲み物を浴室に持ち込んで読書するときの楽しさといったらもう。
ああもうそろそろお風呂からあがらなくちゃ、身体もほてってるし、バスタブのお湯もぬるくなってきたし、などと思いながらもクライマックスが気になって気になって動けない……みたいな経験は最高ですよねえ。
ただし、この遊びは読後感の良い本を選んで行った方がいいかも。私は以前、ミネット・ウォルターズの『女彫刻家』を風呂場で最初から最後まで読んで、あまりの後味の悪さに、長風呂が原因とだけは言い切れない脱力感に襲われました。
長風呂がのぼせるような方には、短編集をおすすめします。クリスチアナ・ブランドの『招かれざる客たちのビュッフェ』、ローレンス・ブロックの短編集(このひとはどれ読んでも巧み)、北村薫先生の“円紫先生と私”シリーズあたりがいいかんじかもしれません。
と、まずは常識的な定番遊びでした。
着衣シャワー
これは内田春菊の短編マンガで見てから真似して行うようになった遊びなので、他にも実践者がいるかもしれません。
服を着たままシャワーを浴びる。ただそれだけ。ただそれだけですが、これがなかなか面白い。
Tシャツとパンツくらいの簡単な服装がいいですね。あんまりきっちり着込んでシャワー浴びると後がたいへんな気がするので。それはそれで面白そうだけど。
服というのは普段はできるだけ濡らさないようにがんばるものなのに、それを思い切りシャワーで濡らすこの遊びは、心の奥の奇妙な背徳感を刺激します。
びしょびしょのTシャツの重さとか、なかなかに新鮮。
旅先で下着くらいは入浴時に手洗いしないとなあ、などというシチュエーションでは、ぜひこの遊びを実行して、身体と下着を一緒に洗うと、旅の楽しみも増すと思いマス。
それにほら、着衣状態でシャワー浴びてれば、覗きにあっても怖くないし。いずれ脱ぐんだけど。そして着衣シャワーを見られたら見られたで、変人と思われて、ある意味よけい恥ずかしいんだけど。
修験者ごっこ
着衣シャワーの発展形。着衣状態で頭からシャワーを浴びながら、「南無阿弥陀仏」などと唱えるのです。
これは、「ああ今日も私はうっかりな失敗をしてしまったなあ」という自己嫌悪に駆られているときに行うことをオススメします。なんか心が浄化されそうでしょ。
冷水シャワーで行うとより本格派ですが、チキンな私はいつもぬるま湯シャワーを浴びています。おかげで心がたいして浄化されません。
浴槽の花嫁対策
かつてイギリスにジョージ・ジョセフ・スミスという名の男がおりまして、彼は次々と女性と結婚しては殺し、保険金を手に入れて遊び暮らしながら次のターゲットを探すという、トンデモライフを満喫しておりました。
彼の手口はいつも同じで、大きなバスタブを購入して、入浴中の奥さんをそこに沈めて殺していたらしいのですね。だからこの事件は「浴槽の花嫁事件」と呼ばれるようになりました。
という事実を受けまして、時々思いついたときに鍛錬も兼ねて行うのがこの遊び、「浴槽の花嫁対策」でございます。
まずは普通にバスタブの中で手足を伸ばして、お湯のあたたかさを楽しみましょう。
それからおもむろに
「うっ、何するのガボガボ」
みたいに声を出しながらバスタブの中に沈み込み、上から頭を押さえられているという前提で、ばたばた手足を動かしながら大げさに泡を吐きだし、暴れます。
その後、適当なところで大きな泡を二三吐いた後、息を止め、暴れるのを止めてぐったりしてみせる。(誰に?)
「泡も吐かないし、動かないし、さてはこの女、死んだな」
と判断されるまで待ってから(だから誰にだよ)、相手の手がゆるみ、油断した頃合いを見計らって、「がばっ」と身体を起こし、相手を突き倒して風呂場から逃げ出し、携帯をつかんで警察を呼んだり、窓を開けて隣近所に助けを求めたり、バスローブを羽織って外に飛び出したりすることで、殺人犯の魔の手から脱する。
というのが、この遊びの全貌でございます。
ただ、この遊びは最終段階まで実行してしまうと、隣近所から物騒な変人として扱われることになってしまうので、その二段階手前くらいのところで切り上げるように注意してください。がばっと身体を起こすあたりでやめること。その先を実行して不利益を被ったというクレームは、一切受け付けません。
浴槽の花嫁対策は単なる遊びではなく、一種の危機管理、いざというときのための備えにもなっていますから、ぜひ全国で流行るべきだと思います。肺活量も増しそうです。素潜り上手になれそうです。メリットばかりだ、やったー。
ただし、この遊びをやるとき内心で感じる恥ずかしさの度合いは、他の遊びとは比べものにならないほど強烈であることは確かです。
まあ、だからこそ流行って欲しいんですが。そうすれば私の恥ずかしさが薄れる気がするので。あれ、まさかこれ錯覚?
というわけで、さまざまな風呂場一人遊びを紹介してまいりましたが、いかがだったでしょうか。
私もこんな記事書いてたらだんだんワクワクしてきちゃって、
「引っ越してからシャワーしか浴びてなかったし、ここはいっちょ、ひさしぶりに浴槽の花嫁対策でもして遊ぶか。風呂沸かすか」
ということになったんですが……
私のアパートの風呂はバランス釜ってやつで、水を浴槽に張った後、ガスで沸かすことが出来るんですが、それをやろうとしたら、どうも釜の中が汚れていたらしく、お湯を沸かし始めたらなんかすごい勢いでゴミが吹き出してきました。
泣きそうになりながらそれをすくい続ける私。それをあざ笑うようにゴミを掃き出し続ける釜。
最後には「だまれてめえ、その口を閉じやがれ」などと言いながら釜のスイッチを切る私。勝ち誇ったように沈黙する釜。
結局諦めて、今日もシャワーだけを浴びることにした私。こみあげる涙。
みたいな有様になってしまいました。とりあえず風呂場の一人遊び推進委員会の一員として、今日は釜を掃除するための薬品か何かを探しに街にさまよい出るつもりでおります。
それでは皆さん、良いバスタイムを!