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だらだら書きますので、だらだら読んでもらえるとありがたく。

プレゼン技術は社会人の嗜み

引っ越しのための荷造り中、私が前の住まいの周辺をうろうろしながら宿を探していると、先輩D(ファウルカップ人)から、
「うちに泊まれよ。子どもたちも喜ぶから」
というありがたいお言葉がかかりました。D夫人も優しく私を迎え入れてくださいました。
ううっ、あんたらほんと、ええひとたちやあ。


食後、D夫妻が出してきてくれたワインなぞ飲みながら私は、H先生のくだされた指示の話を致しました。
「新規に10人か……シロイの友達、なかなかリアルな数字あげてくるね」
「そうですか、リアルですか。しかし10人というのはなかなか大変な数ですよ。ノルマ達成できるかしら」
「ふーむ……よし、わかった、おれも切り札を切ろうじゃないか。おれからもシロイに、誰か紹介してやろう!」
「えっ、やったー、わーい」
「まず、おれの地元の友人であるネコシタ(仮名)を紹介してやろう」
「あれ、確かD先輩、広島出身……そんな遠くの人、紹介されても普通に会えないような……」
「大丈夫だ、今は大阪に住んでるから」
「大阪て! JR西日本じゃんそれ。スイカ使えない時点で遠方だよ、広島と大差ないよ、どうやって会うのさ!」
「なんとかしろ! なんとかなる!! 会うたびに旅行、会えばいい旅夢気分!!!」
「……で、どんなひとなんですか?」
「ネコシタはいいぞ、よくおれに面白いエロゲーをすすめてくれるし。これがまたほんとに面白いからさあ、あいつはいい目を持っているとひとしきり感心するのさ、おれは」
「えーと……私だから今ひきませんでしたけど、他の女性にネコシタさんをすすめるときは、エロゲの話題は伏せるべきでしょうね」
「えっ、そうなの? ふーん……あ、そうだ、近いのがいいなら、ネコシタの弟が東京在住だから、そっちも会わせる。ネコシタ弟は、けっこうかっこいいぞ」
「へー、『弟は』って言い出した時点で、兄はかっこよくはないんでしょうね」
「お前、余計なことに気づきやがって……兄はそうだな、喪黒福造に似てるな。しかし、いいヤツだ」
「えーと……これまた私だから今ひきませんでしたけど、他の女性にネコシタ兄を紹介するときは、似ている人物として喪黒福造をあげるの、やめましょうね」
「えっ、まずいの? まあいいや、で、ネコシタ弟はだな、かっこよくて酒が大好きな男だ。酒に関する知識がとにかくすごくて、蘊蓄がすさまじいっていうか、彼女が出来てもつい酒の蘊蓄語りすぎて、相手がうんざりしちゃうんだよね。だからかっこいいのに現在空き家状態」
「いやだから、マイナス情報の開示が早すぎるよ! かっこよくて酒に詳しいくらいのとこでプレゼンやめとけよ!!」
「えっ、そういうもんなの?」
「だって、売り込みにきた営業が商品の欠点ばかり赤裸々に語ったら、顧客も不安になりますよ!」
「ふーむ……ではここで三番目の物件紹介に移ろう。おれに紹介できるのはとりあえず、現時点で三人までだから、これが最後の物件、そしてそれにふさわしいオススメなかんじ。ナイツさん(仮名)っていうんだけどね。シロイの先輩で、心理学やってたひとだから、話が合うかも」
「あ、大学の先輩なんだ。共通の話題があるのは、ちょっといいかもしれませんね」
「ナイツさんさあ、最近おれの友人が女の子紹介して、会うようになったら、その女と揉めてね……たいへんなことになったのよ」
「えっ」
「『もう懲りた。女は嫌だ。当分紹介しないでくれ』って言われていてね」
「あの、じゃあその時点でもう、駄目なんじゃないでしょうか」
「いや、大丈夫だよ、シロイを紹介されても、あんまり女を紹介された気分にならないじゃん」
「なにその屈辱的な理屈! そしてその時点で紹介の意味ないし!!」
「まあそれはそれとして、ナイツさんはいいよ。会いたくなってきたか?」
「えー……10人のノルマを達成したいので、三人全員に会いたいとは思っていますが、今までの情報だけで気分的に盛り上がれと言われても、無理がありますよ」
「えっ、なんで?」
「なんでって……『エロゲに詳しい大阪在住の喪黒福造』、『かっこいいけど酒の蘊蓄で女性をうんざりさせる男』、『心理学をやってたことのある、女に懲りた先輩』……これらの情報だけでは彼らの人間像も掴みにくく、かつ掴める範囲ではプラス要素が少ないっていうか…特にナイツさんは、どんなひとだか全然わからないし。もっと人柄の伝わるエピソードを」
「ナイツさんの人柄ねえ……バイクやってるよ」
「そうですか。それはほんとに人柄の説明ですか?」
「それでねえ、バイクで事故ったこともある。しかも首都高で」
「いやだからそれ人柄の説明になってませんけど」
「なんでだよ!? すごいじゃん、首都高でバイクで事故ったのに、死ななかったんだぜ? ヒーイズタフガイ!! タフボディ!!!」
「え、なにそれアンブレイカブル?」
「そうそう、かっこいいだろ、会いたいだろ!」
「いやでもそれやっぱり人柄じゃないし! てか、先輩、もっとプレゼン手法考えて。彼らのために考えてあげて!!」
「えー。なんで、駄目なのおれのプレゼンは」


とりあえず、D先輩オススメの三人に会えば、ノルマの十人まで、約三分の一クリアしたことになりますね。がんばろう。
そして、出来れば彼ら三人のために、私がおすすめのキャッチフレーズとかプレゼンを考えてあげよう。『大阪在住、料理の上手な優しいネコシタ兄』とか、『酒に詳しくて知識の豊富なハンサムガイといえばネコシタ弟』とか、そういうの。
で、D先輩にはきちんとしたプレゼン手法が身に付くように、『グラップラー刃牙』の選手入場の巻を読み直すように言ってあげようっと。