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だらだら書きますので、だらだら読んでもらえるとありがたく。

『むしろウツなので結婚かと』第三話~なんでそこが混ざった?

 本日12月30日に『むしろウツなので結婚かと』の第三話が更新されました。
comic-days.com
 今回はマンガの中には描かれていないけれど、あの夜に起きた出来事の話をします。

 さて私はずいぶん昔、ブログに「集団墓参り」というお話を書きました。
white-cake.hatenadiary.com
 このお話は何だかちょっとほのぼの文で書いてあって登場する私も落ち着き払っているんですけれども、実際には全然こんな風ではありませんでした。
 だってここに出てくる出来事は、ウツになったセキゼキさんがぐるぐると歩き続けたこの夜に起きたことだったのです。

 この時、セキゼキさんはとにかく暗くて狭い道を選んで歩き続けました。
 なんでそんなことをしたかっていうと第二話の中にあったように
「シロイの知らない場所に行って、会社の人間を呼び出したりできなくするため」
 です。
(だけどこっちには会社の人間を呼ぶ気なんて全然ないんだから、早く明るい方に帰りたいんだけど!)
 と私は思っていました。
 寒いし暗いし人気はないし、このままイイトシした大人ふたりが土地勘のない場所で迷子になってしまうんじゃないかという危惧も抱いていました。
「会社の人、絶対呼ばないから。天地神明にかけて誓うから」
「春とはいえ夜は冷えうので、とても帰りたいんだけど」
「せめてもうちょっと明るいほうにいかない? 明かりは大事だよ?」
 などと声をかけるのですが、その都度セキゼキさんは意地になったかのように暗い方へ向かっていく始末。
 途方に暮れて私は黙り込み、セキゼキさんはひたすらに歩き。そうやってどんどんどんどん進むうちに、街灯すらまばらになってきました。
 少し前までは住宅地の中を歩いていたというのに、もう人家のたぐいはほとんど見えません。
(これは……怖いな……)
 セキゼキさんをなんとかなだめなくては落ち着かせなくては、という思いでいっぱいだったはずの頭の中にいつしか闇への純粋な恐怖が湧き上がってきました。
 突然、セキゼキさんが立ち止まりました。
「どうしたのセキゼキさん?」
 反応はありません。じわっと不安が広がり、私がもう一度声をかけようとしたその時。
 セキゼキさんは意を決したようにぱっと走り出しました。
 私はその姿を目で追い、なんとセキゼキさんがよりにもよって墓地の中に駆け込んでいくのに気が付きました。
「ええええ、なんじゃいそらああ」
 予想外の展開に虚をつかれた私が呆然としていると、すぐに
「うわああああ」
 という叫び声が聞こえて、セキゼキさんがこちらに走ってきました。なんというお早いお帰りでしょう。
 セキゼキさんはなぜか両手を盛んにパタパタと顔の周りで動かしており、その様子は蜘蛛の巣に突っ込んでしまった人のように見えます。
 そしてセキゼキさんは
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
 と言いながらすごい勢いで走り去っていきました。
「え……?」
 私は何が起こったのか掴めずに立ちすくんでいる間にも、セキゼキさんの背中はどんどん遠ざかっていきます。
(これはもしかして……なにかとても……危険な状況なのでは?)
「うっわああああああ」
 そして結局私も、似たような声を出しながらセキゼキさんを追いかけました。
(やめろよおおオオオ! 夜の墓地からごめんなさいとか言いながら駆け戻ってくるのマジ禁止! 恐怖の! イマジネーションを! これ以上ないほど効果的に刺激されてるぞ今ああ!)
 とにかくあのときの私には、パニックに陥る権利がかなりあったと思います。

 私たちはしばらくがむしゃらに走り続け、やがてセキゼキさんが走るのをやめました。
 けれど息を切らし辛そうにしながらも、止まろうとはせず歩き続けます。
「あの、セキゼキ、さん」
 私は息を整えながら尋ねました。
「なにが、あったの、かな? 教えて、欲しいん、だけ、ど」
「は、墓場の、中に、はい、入ったら」
「入ったら?」
「ごじゅ、五十人くらいの人が、墓参りを、してて……その人、みんな。急に入ってきた、おれに腹を立てた。みたいで。す、すごい目つきで睨んできたんだ。こ、怖かった。追いかけられたら、どうしようかと思って。走って逃げた」
 などと切れ切れに話すセキゼキさん。
「それ絶対にありえないんだけど。だって全然人の気配しなかったというか私の見える範囲では人いなかったし!」
「じゃ、じゃあ一斉に撤収したのかな……?」
 とか言い出すセキゼキさん。
「いやいやいや一斉に撤収ってなんだよ? それこそ絶対に気配するでしょ五十人の撤収だよ? と言うかこの話全体的になんなんだよおお! 怖いんだよこの暗くて誰もいないどこともしれぬ場所でさあああ!」
「お、落ち着けシロイ」
「落ち着けって落ち着けって、落ち着けっておま……」
(誰が誰に落ち着けって言うべき夜なんだよ今日は! ちょっとそこ考えろよなああ)
「いいか、すぐオカルトめいた方向に考えてしまうのはシロイの悪い癖だ。やめよう。あの人だってただ単にすごく座高が高いだけだきっと」
「はい? 座高? どういうこと?」
 私が聞き返すとセキゼキさんは視線をそらし、
「今その話はやめよう。急ごう」
 いきなり早足になってどんどん進み始めます。
「え、ちょっと待って、置いてかないでっ」
 必死に追いかけながら、私の頭の中はもうぐちゃぐちゃでした。
(うわああああん、やめろよおおおおお)
(怖さを! 混ぜるな! 頼むから!)
(身近な人間が突然メンタル患って電車に乗れなくなるとか、それだけで既にすごい恐怖じゃん! 私はもうお腹いっぱいなんだよ! なんでそこでジャンル違いの怖さをぶっこんでくるんだよ???)
 ジャンルを統一するためにオカルト的発想をやめてみるのですが、それでも怖さの解決はしません。
(セキゼキさんがそういう幻覚を見てるんだとしたら、それはそれでとてもまずいし! 薬物やってるとかだともうぐちゃぐちゃだなオイ!)
(そんでもってオカルトでも幻覚でもなく、現実に墓場に五十人もの人がいて、そんで誰かに目撃されからって音もなく一斉に撤収したんだとしたら……)
 それこそが最もヤバくて怖いんじゃないか、ということに更に気づいてしまう私。
(は、犯罪絡みのジャンルだったら一番まずいんだけど!)
 思い出すのはマンガ版パトレイバーで、グリフォンの機動実験を偶然目撃したばかりに殺されてしまったカップルのことなど。
(ひゃ、110番は……駄目だあああ、ここがどこだかもよくわからないっ! そもそも警察になんて言えばいいかわからない!)
「五十人ほどで墓参りをしている集団がいたのですが消えました。中には座高の高い人がいました。目撃したのはウツになって電車乗れなくなった私の彼氏です」
(うん意味が分かんない! 警察に電話はやめよう!)
 そうこうするうちに走りやめたセキゼキさんはいつのまにか方針を変え、明るくて広い道のほうに向けて歩くようになっていました。
 おそらくなのですが、あの時怯えきっていたのは私一人ではなかったのでしょう。セキゼキさんも怖くて、この際会社のこととか全部置いといて人家と明かりが恋しくなっていたのではないでしょうか。
 おかげで私たちはやっと駅に戻ってくることができたのです。
「駅だよセキゼキさん! もう帰ろう」
 私の言葉に、セキゼキさんは嘘のように素直になってうなずきました。
 それから私たちは帰宅してカレー食べたわけですが、ほんと美味しかったですよねあのときのイカカレーチーズトッピングは。
 かえってきた、と思いました。
 もちろんセキゼキさんがウツによって社会の枠組みから外れたという問題は未解決でしたし気持ちはわりと暗いままでしたが。
 それでもホラー世界から普通の現代社会に還ってきたってそれだけでも結構尊く感じられましたよねあの時。