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だらだら書きますので、だらだら読んでもらえるとありがたく。

私の知ってるメシマズ話

ネットでメシマズ関連の話を見ていて、思い出した話をします。
なお、このお話はいつものごとく諸般の事情をかんがみて改変されておりますので、フィクションとおもってお読みください。あなたが似ている話を知っているとしても、それは偶然の一致であり、無関係です

いとこのサミレさん(仮名)は私より20歳ほど歳上なのですが、口癖が
「結婚はお姑さんがポイント」
「お姑さんがきついと、なにもかもがきつくなる」
であることからわかるように、嫁姑のどろどろでむちゃくちゃに苦労している人で、昔からいろんな話をきいています。


若かりし頃のサミレさんは、近所でも評判の美人でした。また、当時の女性としてはなかなかの高学歴でもありました。そのためお姑さんからは
「息子を色気でたぶらかした」
「女のくせに頭でっかちで生意気」
などと言われたのでした。
いきなりきなくさいかんじでスタートした嫁姑関係ですが、決定的な亀裂が生じたのは、旦那さんの実家でうどんを出された時のことでした。
旦那さんはうどんを一口啜るなりぶはっと吐き出し、
「マズッ! なんだこのつゆ、お湯に醤油入れただけじゃないか」
と叫んだのです。


そう、サミレさんのお姑さんは現代ネット用語でいうところの「メシマズ嫁」だったのです。
お姑さんはとにかく料理そのものが嫌いなのと家業が忙しいのがあって、調理をしないで済ませたいタイプ。出汁というものは一切とらず、「そもそも出汁など不要」という考えの持ち主でした。市販の顆粒だしやめんつゆを買うこともせず、野菜でも肉でも食材はすべてくたくたになるまで茹でただけのものが食卓にそのまま出され、家族はそれに醤油をかけて食べました。
メシマズというと奇抜な調理で冒険するアレンジャーが思い浮かびますが、さいわいというかなんというかお姑さんの料理はそういう「積極的にまずい」のではなく、「全然美味しくない」だけでしたので(といったってそれが一年365日続いたら苦痛でしょうが)、それなりに食べられるものでした。
そのせいか、子供たちはみな母親の料理がまずいとは知らずに育ったそうです。
たまに外食すればもちろん美味しいものが出てきたのですが、それは「外の食事は贅沢に作られているから美味しくて当然」と説明されていたわけです。
家庭料理というのはそれほど美味しくないのがフツウだと、彼らはそう信じていたわけです。


ところが独り暮らしを始めてあちこちで食事をするようになった息子はだんだんに外の「贅沢な」味に慣れてしまいました。更に結婚後サミレさんの手料理を食べるうちに、彼が家庭料理に求める味の水準も飛躍的に上がってしまったのでした。
そして彼は久しぶりに実家でうどんを食べた時初めて、自分の母親の料理がまずいことに気づいてしまったのです。


そんでまあお姑さんからすれば、今まで自分の作る食事をすんなりと受け入れていた息子からいきなり文句を言われて大ショック。
息子は変わってしまった、あんなに素直だったのに。それもこれも生意気な嫁のせいだ。
と感じてしまったようなのですね。
それから嫁いびりが激化し、サミレさんはいろいろえらい目に遭うのですが本題ではないので置いときます。


このお姑さんメシマズ問題は長い間、サミレさんを苦しめ続けています。

  • 旦那さんが実家の食事を嫌がり、帰省をしたがらなくなる。
  • お舅さんが何かと理由をつけて息子夫婦の家を訪れ、自宅に帰りたがらなくなる
  • 子供が生まれたが、物心が着く頃になると祖父母の家に行くのを嫌がる
  • どうしても避けられず泊まりで行くことになると、夜中に子供たちが「おなかがすいた」と泣く

といった事態が発生する都度、
「ぜんぶあの嫁のせい」
と怒りを買ってしまうのでした。
確かに、サミレさんの料理の腕がお姑さんと同等に酷ければ起こらなかったはずのことばかりですので、ある意味お姑さんの見解も間違っているとは言えないのですが……


メシマズ話でよく出る疑問に「本人は自分の料理をどう思っているのか」というのがありますが、このお姑さんの場合はまずいという自覚はあるようです。
その上で、そのまずさを正当化しているような印象を受けます。料理の知識がそうとう乏しい(出汁のとりかたも知らなかったらしい)そうなので、気恥ずかしくてきまりわるく、正当化せずにいられなかったのかもしれません。
また、食に対する関心が元々薄いようです。うまいまずいはある程度わかっているにも関わらず、美味しいものに対して全くこだわりを見せていません。
美味への欲求がほとんどなくて、他人のそういう気持ちを理解できないのかもしれません。
それはそれで一つの価値観であり、生き方ですよね。食事がわずらわしくてぜんぶサプリメントで済ませたい、なんて意見もたまにききますし。
とはいえ、結婚して家庭をもうけたのであれば、その時点で家族のために生き方の変更をせざるを得ない部分があるのかな、と思います。食欲というのは生物としてかなり根源的な欲求ですから、そこが抑圧された生活が続くというのはそうとうな苦痛です。


また、このお姑さんの場合、メシマズが世代を越えて連鎖している気配があります。サミレさんの義理のお姉さんの料理は自分の母親とそっくりなのだそうです。全然美味しくないものを食べて育った結果、自然と食への関心が薄くなってしまい、その結果料理に全く興味が持てず前世代と同じことを繰り返しているわけですね。
そのため、

  • 叔父の家に遊びに来た食べ盛りの甥っ子たちがサミレさんの料理を食べて感動し、最後の夜は泣きながら食事中「帰りたくない」と繰り返す
  • 帰宅後もいかにサミレさんのご飯が美味しかったか熱をこめて語る

などの事態が発生したため、サミレさんは姑ばかりか小姑にも盛大に疎まれることになってしまいました。


なんというか、一人のメシマズの影響範囲というのは想像以上に広いのですよね……
家庭という密室の中ではそれなりに成立していた関係も、子の結婚などによってよその家庭と交わることになれば、それまではと同じようにいかなくなります。
子供のこと、孫のこと、更に続く世代のことを考えれば、やはり美味しいものを食べるための方法をしっかり身につけたほうがいいのだと思います。当たり前の結論でスミマセン。