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だらだら書きますので、だらだら読んでもらえるとありがたく。

少年12歳天命説

過去

以前、プロマジシャンのマーカ・テンドーさんとお話したときのことです。


「テンドーさんて、マジック始めたのまだ子どものときですよね?」
「うん、そうだよ」
「何がきっかけだったんですか?」
「よくある話で、デパートのマジック用品売り場だよ。マジックの実演販売見て、おれも絶対できるようになるぞ、と思って、その場で『ラリー・ジェニングスのカードマジック入門*1を買ったんだ」
「本だけ買ったんですか? 本だけあっても、家にあるトランプで練習するのは無理ですよね」
「そうなんだよ、家のトランプで本の通りにやっても、上手くいかないから、おかしいなあと思ってさ」
「そうですよねえ。プラスチックトランプじゃねえ」
あまり知られていないことですが、日本国産で遊戯用として流通しているトランプのほとんどは、マジックを演じるのには不向きです。
プラスチックトランプは、絶縁体で滑りませんので、演技上重要なテクニックのいくつかを実行することができなくなります。国産の紙製トランプは二枚貼り合わせ方式のものがほとんどなのですが、これですと紙の腰が弱すぎるため、使い心地が激しく劣ります。
「これはトランプが良くないのかなーと思って、おれ、もっといいトランプがないか、家中探し回ったよ……そしたら、キャラバンが出てきたんだよ」
「ええええっ、それ有り得ないですよ、なんで普通の家庭にいきなりキャラバンがあるの!? バイスクルじゃなくてキャラバンって、なんかマニアックだし! いや、ほんと有り得ないわ。不思議すぎる」
マジシャンは三枚貼り合せ方式で腰が強く、きちんと滑る紙製のトランプを好みます。世界のマジシャンに最も人気があるトランプはU.Sプレイング・カード社のバイシクルです。
その他にもビー、タリホー、アビエーター、キャラバンなど、マジシャンに愛されるカードは何種類かありますが、最もポピュラーなバイスクルがたまにおもちゃ屋にあるくらいで、普通の家庭でこういったマジックに好適なカードを購入することはまずありません。(それでも最近はバイスクルを扱うおもちゃ屋はだいぶ増えましたが)


「そうなんだよー、おれも不思議に思って、家族に『これ誰が買ったの? なんであるの?』って聞いたけど、みんな『知らない』って答えでさ。結局なんであるのかわからないままだったね。あのときうちにキャラバンがなかったら、おれはプロマジシャンになってなかったかもしれない」
「うわーそれすっげー不思議ですねえ……でもなんか運命的でいい話だなあ。テンドーさんがちゃんとプロマジシャンを目指すようにって、神様がキャラバンをプレゼントしてくれたみたい。これが天命ってやつでしょうか?」
「あはは。天命ってものがほんとにあるかどうかはわかんないけど、そういう風に考えると、苦しいときもがんばれたよな。あの時おれはキャラバンを見つけたんだから、この道がおれの進む道なんだ迷うなって、思えたからな」

現在

ごく最近、セキゼキさん(仮名)とこんな会話をしました。


「アダルトビデオに興味を持ち始めて、でも子どもだから借りることも買うこともできずに途方に暮れる時代ってのを、ひとは誰しも通るものだろ?」
「えっと、私にはないけど、君にはあったんだねそんな時代が。そしてきっと大勢の男性も同じ道を通るんだろうね。それで?」
「どうしたらアダルトビデオを見られるだろうと思って、来る日も来る日も悩んでいたおれはある時、なぜか自宅の棚の上にぽんと置いてあるアダルトビデオを見つけちゃったんだよ!」
「ほう。家族の誰かのやつかな?」
「それが有り得ないんだよ! あの頃親父は単身赴任中だったし、お袋は明らかに興味なさそうだし、弟は幼すぎてまだアダルトビデオ段階手前だったし!! 未だにほんと不思議なんだよ。それとなく家族に聞いてみても誰も心当たりなさそうだし、忽然と棚の上にアダルトビデオが出現したと思えない状況だったんだ」
「ちょっと苦しいけど、遊びに来た友達がこっそり置いていったという説はどうかな?」
「いやそれじゃ説明つかないんだ。だって、当時の我が家のビデオデッキはVHSじゃなくて、ベータだったんだから! そしてベータ使ってる友達なんていなかったし!」
「へえ……あ、そういえば、ベータがVHSに負けたのって、アダルトビデオの大半がVHSで出たからって聞いたことあるよ。ベータのアダルトビデオなんて、珍しいんじゃないの?」
「だろ! そのレアなベータのアダルトビデオが、おれが大人の階段を上り始めたまさにそのときに、突然現れたわけだよ。ほんと不思議だよ。未だにあのビデオはなんだったのかと考えるときがあるよ」


んー?
なんだろこの既視感。昔、似たような会話を誰かとしたことがあったような……?
「ああっ。思い出した。テンドーさんだ、テンドーさんの話に似てるんだそれ」
私はそこでテンドーさんがキャラバンを見つけたときの話をしました。
「確かにその話、似てるといえば似てるな……ただ、似てはいるけど……なんというか話のレベルが違うっていうか……」
「テンドーさんがマジックを始めたのが12歳前後の話で、セキゼキさんがアダルトビデオ初鑑賞したのも12歳前後だから、時期も一致するよ……あ。もしかして」
「もしかして?」
「12歳前後の少年には、天命が下るのかもしれないね。天は少年たちが進むべき道を迷わず選べるように、ヒントとなるささやかなプレゼントを送るんだよ。うーん、ロマン溢れる話だねこりゃ!」
「ちょっとマテ。おれの天命って一体?」
「やっぱりAV監督か男優だったんだろうね本来なら。あるいはAVソフトメーカーの社長。もしかしたらマネーの虎に出演していたのは、天命どおりであれば高橋がなりではなくて、セキゼキさんのはずだったのかも。それともハプニングバーで逮捕されるのはチョコボール向井ではなくてセキゼキさんだったのか? いやひょっとして……」
「ストップ。何言ってんの君」
「大人の階段を上り始めるまさにそのとき、天より訪れるメッセージ。名づけて『少年12歳天命説』。セキゼキさん、せっかく天からプレゼントもらったのに、天命の道を生きることができず残念だったね?」
「残念? ……つーか、テンドーさんの天命は世界的マジシャンとして活躍することで、おれの天命はハプニングバーで逮捕? おれはテンドーさんの引き立て役かなにかですか? つかやっぱりあれは家族の誰かが置いておいたビデオだったんだろうね。うん。そこに何一つ不思議はないな」
「ああっ、ロマンがないこと言うな君は」
「そもそもアダルトビデオ業界のことがすらすら出てくるシロイが嫌だなおれは」


てなわけでセキゼキさんには否定されてしまったのですが、私は今日から『少年12歳天命説』を唱え、普及していく所存でございます。
12歳前後の少年と、その保護者のみなさん、くれぐれも天からのプレゼントをお見逃しなきよう。
そしてかつて12歳の少年だったみなさん、あなたの天命は何でしたか? その後天命にそって生きていますか?

*1:マジックの入門書としてはこの上ない名著として有名すぎるほどの書物です。おすすめ。カードマジックを始める最初の一冊はコレにするべし。