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だらだら書きますので、だらだら読んでもらえるとありがたく。

脳内ラジオで調子をはかれ

今の職場で働き始めて一ヶ月以上が経つわけですが、現在のところはけっこう気に入っております。
それゆえ朝、駅に向かうときは、自転車のペダルを踏む足も軽く、絶好調で頭の中を曲が回っております。
私は調子が良いときに思い浮かぶ曲というのが流行り廃りはあるものの、わりあい決まっておりまして、絶好調時に流れる曲のナンバーワンはME&MYの” Dub-I-Dub”でございます。(古いねー)
“I can live, live without your love!”(あなたの愛なんてなくても私は生きていけるの)
“I don’t need your love anymore.”(あなたの愛なんてもう要らない)
などという気丈にもほどがある歌詞が満載のこの曲は、軽快なリズムとあいまって、好調時の攻め攻め強気モードな気持ちに、しっくりくるのでございます。


そして、ナンバーツーも実は決まっておりまして、これはエリカ・バドゥの”Certainly”でございます。
「誰があたしに近づいていいって言ったの? あたしを好きになってもいいって言ったの? あたしじゃないことだけは確かね。あたしはラブアフェアなんて、探しちゃいないもの」
というこれまた残酷なくらいに強気な歌詞が私は大のお気に入りでして、エリカねえさんの大人っぽくて色っぽい歌声が、自分を奮い立たせてくれるのを感じます。


こういう状態の私に、
百人一首の中で一番好きな歌はどれ?」
と聞けば、
「ちょっとマイナーだけど、祐子内親王紀伊の『音に聞く 高師の浜の あだ波は かけじや袖の 濡れもこそすれ』*1だねー。かっこよすぎる。こういうおばあちゃんになりたい」
と答えること請け合いです。*2
なぜか好調時の私は、近づく者を切り捨てる気概に満ちあふれているのです。


で、この絶好調モードは、出勤前に会社の近所のドトールで必ずテイクアウトするコーヒーの効果もあって、午前11時近くまでは続きます。
が、大体そのあたりで、空腹にもなるし、調子が落ち始めてくるので、流れる曲が変わってきます。
小田和正
「君を抱いていいの? 好きになってもいいの?」
とか弱気に問い始めたりします。
斉藤和義
「安定 計算 それも確かに大事なことかもしれない」
とか分別くさいことをのたまったりもします。


この頃、私が好きな百人一首を選ぶと、
「忍ぶれど 色に出にけり我が恋は 物や思ふと 人の問うまで」
あたりにビミョウに変化しています。


そして午後。
仕事が徐々に煮詰まり始め、脳内ラジオ局は、更に選曲を変更。
「嫌いだ あなたといるときのぼくが たまらなく情けなくて」
と稲葉さんがへたれたことを言います(それにしてもこの選曲、マイナー過ぎないか)。しかし、この曲全体を通すと希望があるので、まあいいでしょう。
この時間帯のマイフェイバリット百人一首
「玉の緒よ 絶えなば絶えね ながらえば 忍ぶることの 弱りもぞする」
だったりします。なぜか情熱的ですね。


やがて更に時が経ち、定時に帰ろうとすれば帰れるうちの職場ですが、残業がそれほど嫌いではない私は、残ってしまうときもあります。今日とか寒いから、会社出るの億劫だったしさー。


そうすると、さすがにお外は真っ暗だし、オフィスからぱらぱらと人が去っていくし、季節は冬に向かいつつあるし、朝とはうってかわって悲しげな曲が、脳内を流れるようになるから油断がならない。


「寒い暗い夜はいやだ 女々しい物思いにふける たばこの灯りは 眠れぬこころ照らす」
とか歌い出す稲葉さん。やめてくれ、なんか超切ない気持ちになってくるじゃないか。この曲自体は好きだけれども。
「ガラスならあなたの手の中で壊れたい ナイフならあなたを傷つけながら折れてしまいたい」
とか情念のこもった歌声を披露してくれるのは中島みゆきさん。ていうかこの歌詞、怖いにもほどがあるのですが。好きですけど。


そして私は、脳内を「Love is Dead」が流れ始めたとき、ついに観念して、仕事を切り上げます。
だってさー、
「LOVE IS DEAD 消してよ 死んだ恋の呪文を この身体から じゃないとまともに生きられない」
とか言われるんだよ? 病んでるじゃん。


お気に入りの百人一首だって、もうそうとう変化していて、
「月見れば 千々に物こそ悲しけれ 我が身一つの 秋にはあらねど」
と辛気くさかったり、
「忘らるる 身をば思はず ちかひてし 人の命の 惜しくもあるかな」
みたいに情念たっぷりになっていたり、
「瀬をはやみ 岩にせかるる谷川の 割れても末に 会わんとぞ思う」
などという悲恋ものになっています。
もうこれは、帰るしかないねー。


電車に揺られ、最寄り駅に着く頃には、疲労も回復し、おうちに帰れるのが嬉しいから、再び自転車にまたがると、ペダルを漕ぐ足も、案外軽快に動きます。
気持ちもなんだか上向いてくる。
そして私は、脳内ラジオ局が毎日最後に流すことに決めている一曲、”Don’t Worry, Be Happy”を口笛で吹きながら帰るのです。
心の中の百人一首は、
大江山 いく野の道の 遠ければ まだふみもみず 天の橋立」
となんだかまたしても強気系の歌に変わっております。
「家に帰ったら、風呂の中で面白いミステリー読むぞー。今日はリンダ・フェアスタインの『隠匿』があるぞー」
などと思いながらの帰路はなかなかに楽しい。


私の一日は、大体そんな風に、過ぎております。

*1:男性側が「人知れぬ思ひありその浦風に 波のよるこそ いはまほしけれ」(私は人知れずあなたを思っています。浦風に波が寄せるようにそっと、あなたにこの気持ちを打ち明けたいのです)と歌ったのに対し、(高師の浜の波は、打ち寄せたらすぐ引く浮気な波。あなたも同じような方ってことは知っていますのよ? だからあなたの気持ちなんていりませんわ。波で袖が濡れるように、涙で袖を濡らすのはいやですもの)と返した歌です

*2:ちなみにこのコンディションだと、次点は「春の夜の 夢ばかりなる手枕の かひなく立たむ 名こそ惜しけれ」になります。意味はもう各自で調べてください。