wHite_caKe

だらだら書きますので、だらだら読んでもらえるとありがたく。

四日目 本断食二日目

またしても起伏のない断食生活描写が続きます。興味のない方はさっさと引き返して、街でカリカリ梅でも食べるべきです。
目が覚めると同時に空腹を自覚しました。
しかも、昨日よりパワーアップした空腹。お腹がとっても空いているときって、気持ち悪くなったりしますよね。アレです。
静座の行われる娯楽室兼広間に向かいます。私の部屋からは階段を上っていくのですが……
「うーん、動くと必ず空腹になるなあ」
昨日から気付いていたのですが、寝転がっている分には、空腹を忘れていられるのに、ちょっと立ち上がって動くと、その瞬間お腹が空くのです。
「ゴロゴロしてるんならまだしも、動いていいだけのエネルギーは供給されてないよ! 食事しろ食事」
と身体が訴えているのかもしれません。
水は飲み放題で(ちなみにおいしい)、事務室脇のタンクから汲むことになっているのですが、そのタンクに行くまでの階段の上り下りが、空腹をもたらすのです。辛くはないんですけどね。


外は細かい雨が降っています。
「本断食中でも散歩行ってええよ」
と院長先生に許可をもらった私は、ぜひ今日は散歩に行きたかったのですが、断念した方がよさそう。コインランドリー式洗濯機も外にあるので、洗濯も後回しにするしかありません。


部屋でひたすらごろごろ。読書、PCさわって(そのたびに液晶のヒビを悲しみながらみつめて)、読書。そして、友達から来たメールの読み返し。
入所以来、ちょっと院長先生と会話したくらいで、全然他人と口を利いていないのですね私。けっこう人恋しいので、メールを延々と読み返しながら娑婆を思います。
昨夜どうも居酒屋に行ったらしい友人からのメールには、美味そうな煮魚と、あとこれは何だろう、皮付きジャガイモとアサリの洋風煮?の写真が貼付されています。どっちの写真もおいしそう。湯気漂ってきそう。「お腹すくよね」というコメントに殺意が芽生えかけました。
その後、妹からメール。私が「とんかつ食べたい」と真情を吐露したところ、

トンカツもいいけどうなぎもね、あのほくほくしてとろけるような身、甘いたれがかかった真っ白いご飯。関西のは特に蒸さずにそのまま焼いているからとろけるような味なんだよね〜

という素敵メールが返信されてきました。みんなが私を苛める……


それがきっかけとなって、今自分が食べたいものを延々と頭の中で並べる作業が始まりました。
「トンカツにソースをたっぷりかけたやつが食べたい。芥子もたっぷりつけてね!」
「カツ丼じゃなくてしっとりソースカツ丼が食べたい」
「豚肉の生姜焼き定食食べたい。豚肉の脂身の旨味に恍惚となりたい」
みつ豆が食べたい。甘い甘いみつ豆
「というか、缶入りのゆであずき買ってきて、それをぱかんと開けて、そのままスプーンでわしわし食べたい」
「ファミレスメニューでよくあるイタリアンハンバーグが食べたい。トマトのソースとチーズがかかってるやつ」
「缶詰のみかん食べたい。シロップも飲む」
「きゅうりの酢の物がなぜか食べたい」
ジャーマンポテトが食べたい」
「オムライス。ケチャップをたっぷりかけてふわふわ卵を食したい」
「モスチキンにかぶりつく! あのさくさく衣を味わう」


おかしなことに、きゅうりの酢の物、缶詰みかん、みつ豆、イタリアンハンバーグなどは、普段私がそれほど好きな食べ物じゃないんですよね。嫌いでもないけど。
普段はソースカツ丼より、フツウのカツ丼のほうが好きだし。
どうやらかつてない空腹が私の好みを変化させているようです。このまま断食が続けば、さらなる変化が見られるのでしょうか。


といっても、私は常に空腹を意識しているわけでもなく、ほとんどの時間は、空腹を忘れて過ごしており、時折思い出したように空腹に襲われるのです。おそらく胃腸の動きの周期に関係があるのでしょう。
それと、『好き好き大好き超愛してる』を読んでいる途中で、

トースターから出てきたばかりでマーガリンをさっと塗られたトーストの、指先の当たるミミの温かさ、柔らかさ、パン全体のしなやかさ、堅さ、湯気に混じるパンとマーガリンの香り、表面で溶けたマーガリンの艶、

などという描写にでくわしたときには、身体が空腹を思い出しましたね。このパンの描写は、実際にはとてもシリアスなシーンにちらっと出てくるだけなのですが、もうシーン全体のことは忘れて、身体はパンとマーガリンに夢中。


13時過ぎ。ふと思いついて、携帯で自分撮りの練習。何やってんのお前気持ち悪いよ、と自分でも思うのですが、これにはちゃんと切ない理由があるのです。
昔から、私は周囲に写真映りの悪い人間だと言われていました。
免許証の写真を見た妹は「生活苦の果てに保険金殺人を犯した女の顔。たぶん2、3人やってる」と評しましたが、まさにそんなかんじ。
自分が絶世の美女からほど遠いことは認めるけど、鏡に映っている自分はもうちょっとマシな気がするんだけどなあ……どうして写真だとこんなに酷いかなあ……といつも悩んでいるのです。


たとえばこの間、私は親切な友達の紹介で、彼女の勤める会社の面接に行ったのですが、そのとき友達は私が履歴書に貼った写真を見て「ぎゃー。酷すぎる」と呟いたそうです。
「『よりによってなんでこんな写真?』と言ってましたよー」
と面接官はにこにこしながら教えてくれました。
ちなみに私が実家でその写真の余りを取り出したとき、父は
「お前! なんだこの写真、酷すぎる。写真だけで落とされるぞ」
と言いました。
「最初に撮った写真があまりにもあんまりだったから、もう一回撮ったんだけど、大差のない出来で悲しくてお金がもったいなくて、それでこの写真になったんだ」
と私が答えると、
「じゃあおれが撮り直してやる。そしてPhotoshopを駆使して、写真うつりを超良くしてやる」
と言ってくれましたが、それって詐欺じゃないでしょうか。


まあとにかくそんなわけで、これから職探しをする人間が、写真だけで落とされるような履歴書を作り続けるわけにもいきませんし、私は今、どうやったら少しでも写真映りがよくなるかマジで知りたいのです。教えてエライ人。
携帯でパシャパシャ自分を撮りまくり。恥ずかしい。死にそう。でも撮らなきゃ、これは研究だもの。撮って、そして結果を見ろ!
「……酷い」
再び撮る。
「……ちくしょう」
さらに撮る。
「死ね、ドブスが!」
撮影会は中止されました。


そして読書。ときどきうたた寝。『好き好き大好き超愛してる』読了。新たな本を求めて娯楽室へ。
山下和美先生の『スカイ・ブルーへようこそ』全二巻、辛酸なめ子先生の『アイドル万華鏡』を借りました。


『スカイ・ブルーへようこそ』を読み終わり、『アイドル万華鏡』を読んでいる途中で、自分が読書に飽き始めていることに気が付き、再び娯楽室へ。
綿矢りさ先生の『インストール』とリリー・フランキー先生の『女子の生きざま』を借りて、飽きたら他の本に手を出す三冊ローテーション方式を採用することにしました。


途中、院長先生と再びちょっと会話。
院長先生は、サービス精神がある方というか、会話が面白くてあたたかみがあり、親密さを感じさせる笑みを浮かべることに長けています。
ちょっと目があったときとかに、にっと明るく、親しげに笑うんですよね。
私はこの手の親密微笑をごく自然に浮かべる男性に数人心当たりがあるのですが、思えば皆関西人だったような気がします。
「関西の男性はかっこいい」
「関西の男性はかんじがいい」
などという話を聞いたことがありますが、たぶん顔かたちの問題ではなく、明るいサービス精神と感じの良い笑みの存在が大きいのかもしれないなあ、と思いました。


部屋でうとうと(またかよ)していると、静座の時間になりました。
最初の頃に比べると、連休の終わりが間近なせいか、ずいぶん参加者が減っています。
「あなたは長いねえ」
「でも明日には帰るんですよ」
といった会話が周囲で交わされ、「あなたは?」と私にも質問が振られました。
「18日までいます」
「えっ、長いな!」
「二週間の滞在ですから」
「うわー、先が長いね、がんばって」
と言われたとき、ちょっと向こうの表情に同情が混じっているように思えたのは、たぶん気のせいですよね?


静座が終われば読書以外にすることもなく(お風呂は今日はナイようです)、ごろごろしながら読書に耽ることに。『アイドル万華鏡』読了。次は『インストール』をメインに読み進める予定です。
古いこち亀を何冊か見つけたので、それも読むことにしました。三巻の頃の両さんは、ちょっと渋めの、案外いい男です。そして中川は軽薄キャラ。時の流れを感じさせられます。
雨音を聞きながら眠くなるまでごろごろ読書って悪くないですねえ。おやすみなさい。
(五日目へ)